いつまでも君を待つ・1






激しい十二宮の戦いが終わり、沙織がアテナと認められた。

世界各地へ散らばっている聖闘士達への、今回の黄金聖闘士と青銅聖闘士の戦いの真実の通達、破壊された十二宮の修理などの事後処理の手伝いに沙織の秘書であり、友人のが日本から呼ばれた。

何時また邪悪な牙が地上を脅かすか知れないため、聖域の復興は急がねばならず、人手はあるに越した事はない。

が呼ばれたのは聖域の復興の手伝いとは他に理由があった。

聖域に常に居ることができない沙織にはこれから聖域から聖闘士が護衛として傍に付き従う事になるのだが、そうすると聖域と日本で連絡を取り合わなければならない時があるだろう。

そういった時に辰巳以外にも財団内、できれば沙織に近い立場にいる者が聖域の事を知っていた方がスムーズに事が運ぶだろうと考えられ、が適任として呼ばれたのである。

に力仕事は無理なため、教皇宮で次々と運ばれる報告書の整理などにあたった。





「あ〜、疲れる。事後処理ってなかなか疲れるのね。」

教皇宮の一室で書類整理をしていたが大きく伸びをした。

カチャ

ドアの開く音がしてそちらを向くと、ムウが入って来た。

「どうです、。一段落できそうですか。」

「ムウ。」

聖域に来てから何かと忙しくあまり他の人と話していないが、ムウはいろいろと気を使ってくれて今みたいに話しかけてくれる。

「うん。今丁度区切りがついたところ。」

「そうですか。では、今からちょっといいですか?」

「何?」

「ここに来たばかりの頃、聖域の事を知りたいと言っていたでしょう。でもすぐ仕事に追われて話す切っ掛けがなかったんですが。」

うんうんと、はムウの話を聞いていた。

「聖域の事を知りたいのならば、良い場所があるのです。」

「えっ、本当!」

「ええ、今から案内したいのですが良いでしょうか。」

「勿論!ぜひお願いします!」

勢い良く椅子から立ち上がると、ムウの後について行った。






ムウの案内で着いた所は。

「図書室?」

「学校みたいな言い方ですね。ここは書庫です。聖域のあらゆる事柄を記した書物は勿論の事、もう世間では絶版になっているその年代ごとの出版物もあるんです。」

「うわ〜、すごい量ね。」

薄暗い中は古くなった紙特有の匂いが鼻を刺激する。

は語学は問題なかったですね。」

「あ、それなら大丈夫。読めるから。」

ムウに返事をしている時、既にの意識は沢山の本たちに向けられていた。

興味深そうに見ている。

、私はもう行きますね。ごゆっくり。」

「うん、ありがとう、ムウ。」

一旦ムウに向き直ると、ムウが出て行くのを確認し再び視線を戻した。

とりあえず片面の壁に並べられている本を眺めていると、一冊の本を手に取った。

タイトルは簡潔に、「1600〜」とだけ書かれているだけだ。

本を開いてみると、前書きも何も無く年代とその時に起こった事が簡単に書かれている本だった。

「年表記みたいなものかな。」

一人呟いて、窓から日が差す位置に椅子を移動させるとそこに腰を落ち着かせた。

物語性は全く無く、聖域に起こった事だけを記しているだけだが、の知りたかった「歴史」は知る事が出来た。

年代と月日を目で追っていくとある項目に目が留まった。




ー女神降臨ー




今から259年前の西暦になっている。

約250年毎に起こる聖戦に合わせて、女神アテナもこの世に誕生するという。

はそう聞いていた。

「沙織の先代のアテナがこの時に・・・・。」



誕生した。



(先代アテナも、今の沙織のように地上のために聖闘士たちと闘っていたんだろうな。)と、ぼんやりと考えながら読み進んでいくと、1900年代にまできた。



・・・・ッ



「!」

何か聞こえたような気がしてハッと顔を上げた。

耳をすませて辺りの音に集中してみたが何も聞こえない。

気のせいだったかと、首を傾げつつ本に目を戻そうとした時。



ッバチバチッ



火花が散るような音が頭上からはっきり聞こえ、は慌てて上を見た。

すると。

高い天井の一角が黒い渦を巻いているのが見えた。


「な、何っ。」


超常現象に遭遇した気分になったは無意識に椅子から立ち上がり、すぐに逃げられる体勢になった。

黒い渦の回転が速くるごとに大きさも大きくなり、渦の波はおも巻き込む勢いで激しくなってきた。

「ちょっとちょっと〜〜っ!!」

強い吸引力で体が黒い渦に呑まれかかる。


バターンっ!


扉が勢いよく開かれると、ムウを先頭に沙織、ミロ、アイオリア、アルデバラン、シャカが駆け込んできた。

さんっ!」

「沙織!みんなっ!」


突然感じた異常な小宇宙に駆けつけた沙織をはじめ黄金聖闘士たちは今の状況に絶句していた。

「助けて〜っ!」

の体は半分に以上渦の中に納まっていた。呑まれないよう必死に捕まって抵抗しているがそれも時間の問題だった。

(もう・・・腕が・・限界っ。)

腕が痺れて体を支えきれなくなり、は掴んでいた腕を離してしまった。

支えをなくなったの体はあっという間に渦に中に呑まれていった。

さんっ!!」

黄金聖闘士たちを押し退けた沙織が前に出ると、はめていた指輪に小宇宙を込め、を呑みこんだ渦の中心へとその指輪を力一杯投げた。

指輪は吸い込まれるように渦の中に消え、同時に黒い渦も急速に小さくなり最後には跡形も無く消えた。

さっきまでの轟音が嘘のように部屋は静まりかえっていたが、散乱した様子との姿がない事が、現実である事を物語っていた。

厳しい表情で沙織は消えた渦の場所を見ていた。

(指輪が、さんに届きますように。)




Next   メニュー




のっけからヒロイン何処へ行ってしまうんでしょう。えっ、バレバレですか?!そうですよね。シオンがお相手の話ですからね(笑)