いつまでも君を待つ・2






アリエスの必殺技を受けて、聖域内に入り込んだ敵が断末魔とともに消滅した。

傍にいたサジタリアスは少々呆れた様子で言ってきた。

「何も必殺技を出す必要もなかったんじゃないか。」

「何を言う!ここ、聖域に敵が侵入してきたのだぞっ。全力を持って倒さねば聖域の示しがつかんではないか!」

呑気ともとれるサジタリアスの言い方にアリエスは反論するが、そこで言葉を切った。

「サジタリアス、アテナのお傍にいたのではないのか?」

「ああ、アリエスが気になるからと言ってお傍を離れた。」


ピシっ


アリエスの中で何かが弾けた。

「それでは今アテナはお一人か!!すぐお傍に戻るぞっ!!!」

怒鳴られたサジタリアスは、そんなに怒らなくても、といった様子で苦笑している。

「!」

「っ!!」

突然二人の体に緊張が走った。

アテナがいる上空の空気が変化したのを感じたからだ。

一気に臨戦態勢をとったサジタリアスとアリエスはアテナのもとに駆け出した。



それぞれ

サジタリアスは少しでもアテナの傍を離れたことを後悔して。

アリエスは先程倒した敵で最後だと油断したことを後悔して。








自分のすぐ上の空気が重くなるのを感じ、少女はハッとした。



少女はこの地上の愛と平和を護る女神・アテナの化身。


そのアテナは上の空間を凝視していた。

その場を動かなかったのは邪気が感じられなかったから。

空気が思いと感じた空間に突如、黒い渦が出現した。

強い風圧を肌に感じた時、渦の中から女性が自分に向かって落ちて来るのが見えた。

二人の視線が一瞬重なる。


「きゃっ!!」

「ぅわっ!!」


落ちてきた女性・は、アテナを押し倒すような形で地面に倒れた。

もアテナも何が起こったのか分からず、目を瞬いて動けずにいた。

先に動いたのはで、自分の下に少女がいることが分かると、両腕をついて重なっていた体を離した。

「ごめんなさいっ!!」

は自分の下に倒れている少女に瞬間目を奪われた。

「あ・・・。」

は何て言っていいか分からず沈黙していると。

「アテナ!!」

「ご無事かっ!!」

男二人の出現にの注意がそちらに向けられた。

(聖衣・・・?それも黄金。)

男二人が黄金聖衣を纏っているのに驚いていると、その二人も目にした光景に驚いている所だった。


アテナが女性に押し倒されているっ!!


サジタリアスとアリエスにはそう映ってしまった。

「女!その方から今すぐ離れろっ!」

「え・・。」

絞り出すような低い声が自分に向けられている事に、は目を見開いた。

「いつまで我らがアテナに不埒な行為に及んでいる!!女だとて容赦はせんぞっ!!」

「えええええええっっっ!」

勢い良く少女から離れると信じられないようにまじまじとアテナと呼ばれた少女の顔を見てしまった。

(・・・アテナ、この子が?)

突然のの大声にアテナはびくっと体を震わせたが次には少女らしい笑みを湛えていた。

が離れたのでアテナも起き上がろうとゆっくり体を起こすとサジタリアスが助け起こす。

「ありがとう、サジタリアス。」



「怪しい奴だ。女、お前の目的は何だっ。」

は濃紺のパンツスーツに白いブラウスと、アリエスにとって見た事がない装いだったため怪しさを拭いきれなかった。

「痛いっ!」

急に片腕を取られその力強さに顔をしかめた。

「何するの!離してっ。」

「アリエスっ。」

アテナが慌ててアリエスをたしなめる。

「その手を離しなさい。女性に手荒な真似はよして下さい。」

「しかしアテナ!この女は貴女に不埒な事をしようとしたのです!」

「そんな訳ないでしょっ!!」

自分の腕を掴んでいる男のとんでもない解釈には力一杯否定した。

「うるさい!」

「アリエスっ!」

さっきより語調を強め、腕を離しなさい、と鋭い視線をアリエスに送っている。

納得いかない様子のアリエスだったがアテナの言葉には逆らえず、の腕をようやく離した。

掴まれていた腕の袖を捲くるとやはり痣になっており、少し痛みを伴っている。

その腕をアテナがそっと触れる。途端に腕に広がる暖かさにはアテナを見た。

(沙織よりちょっと年上かな。この暖かい感じ、沙織からも時々感じるのと似てる。)

「これで大丈夫ですね。アリエスの失礼な振る舞い本当にごめんなさい。他に痛い所は?」

「・・大丈夫、もうないです。私より貴女の方にケガないですか?貴女を下敷きにしてしまったし。」

「ご心配には及びません。下は草が生い茂っていたのでクッション代わりになりました。」

笑ってそう言うアテナに沙織が重なった。

(雰囲気が似てる。この子がアテナで、黄金聖闘士もいるって事はここはやっぱりギリシャの聖域かな・・・。私の時代の聖域じゃないみたいだから、何時の時代だろう。)

は自分があの黒い渦によって時間移動をしてしまったと分かった。その時間移動が過去か未来かは分からないが。

(・・・でも。)

いくら大事なアテナの上に覆いかぶさっていたとはいえ、人を痴漢、もとい痴女扱いしたアリエスと呼ばれた男は許せない!

(勘違いも甚だしいわっ。)

突然自分に降りかかった災難にただでさえ動揺している所に、身に覚えのない誤解をされて気持ちが治まらないはアリエスを睨んでやった。

アリエスの方もが睨んでいると知ると、睨み返してきた。

アテナにたしなめられたとはいえ、まだを警戒している様だった。

アリエスの顔を睨んでいたは、ふと気付いた。

(ムウと同じ眉だ。)

それに気付いたは、このアリエスはムウの先祖か子孫かと血の繋がりを考えた。

(聖衣もムウと同じ牡羊座・・・。)

「名前を聞いても良いかしら。私の事はアテナと呼んで下さい。」

アテナの言葉にとアリエスの睨み合いは中断され、の思案もそこで途切れた。

「・・・です。」

「では、。貴女は、どこから来たかまでは分かりませんが空間を飛んで来たようですね。」

ズバリっと確信に触れたアテナには驚き、アリエスとサジタリアスもアテナの言葉に驚きを隠せずにを見た。

「分かるんですかっ?!」

アリエスとサジタリアスはの言葉に益々驚いた。今のの言葉はアテナの"空間を飛んできた"という事を肯定しているからだ。

「ええ、さっきの黒い渦が元凶でしょう。」

「そうなんです!さっきも・・・」

「ちょっと待って下さい!」

がここに来た経緯を説明しようとしたらアテナによって遮られた。

「続きは上で話しましょう。」

「上・・・。」

「教皇の間と呼ばれる場所です。」

はい、知ってます。

ここでまたもやアリエスが吠えた。

「アテナ!この怪しい輩を十二宮、はては教皇の間まで通すのですか!!」

(こいつ〜。)

は自然と拳に力が入った。

(私が本当に危険人物か、いい加減見極めてよねっ!)

石頭なアリエスには脱力感を感じ、うんざりした。

「アリエス。」

今まで口を挟まなかったサジタリアスがぽん、とアリエスの肩を叩いた。

「アテナのご様子から察するに、この娘はそんなに警戒するほど怪しい人物とは思えない。むしろ何か事情があるようだぞ。それにさっき黒い渦がアテナの傍に現れたと他の連中も気付いているだろうし、ここで押し問答するより早く戻って説明しなくては。なっ!」

「〜〜っ。」

サジタリアスの尤もな意見にアリエスは言葉にならない声をだし。

「・・・そうだな。」

教皇の間に行く事には同意したようだ。

サジタリアスは傍から見ても分かるようにほっとしている。

その様子を見ていたアテナはくすっと笑うとを促した。

「行きましょう、。」

は頷くとアテナのすぐ後ろに続いた。

「おい。」

アリエスの声にの眉がぴくっと上がる。

「アテナに変な事をしようと思わない方が身のためだぞ。」

脅しを利かせているようなアリエスには心の中で深い溜め息をつくと肩を落とした。

(一体私に何が出来るっていうのよ。いい加減分かれ!)

とアリエスのやり取りに、アテナとサジタリアスは、おもしろい2人だと同じ事を考え周りに気付かれないようにそれぞれ笑っていた。




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聖闘士は互いを守護星座で呼んでます。名前をそれぞれ決めてもいいかな〜と思いましたが、それだと読んでる皆さんが混乱すると思いまして。第一10名も考えられないよ(シオンと童虎は除外)。