ライトな二人−5− 4人が十二宮の階段を上り、そろそろ白羊宮が見え始めた時。 「アテナ、私は教皇宮に、ミロは天蠍宮にそれぞれ先に向かいます。」 「ええ、さんと私は後からゆっくり行く事にします。」 シオンとミロは沙織に一礼するとあっという間にその場から走り去ってしまった。 「速いわね。もしかして、さっきまでは私達に歩く速さを合わせてくれてたのかな。」 「そうですね。なにせ黄金聖闘士は光速で動く事が出来るので、私達に合わせるときっとすごくゆっくりに感じるのではないですか?」 「光速っっーー?! 本当に人間なの!!」 は思わず叫んでしまった。 「さんてばっ、でも、ふふ、確かに、常識では有り得ませんからね。ふふふっ!!」 沙織もの言葉に声を抑えきれずに笑ってしまった。 「何をそんなに笑っていらっしゃるんです。アテナ」 突然の声に二人はピタッと笑うのを止めて声のするほうを見た。もう白羊宮は目と鼻の先にあり、その入り口には金色の淡い光を放つ青年が立っていた。 失礼ながら、穴の開くほどしばらく青年を見つめてしまった。 「そんなに見つめられるとテレますね。」 青年が苦笑を洩らしながら言ったことで、は我に返った。 「はっ! わっ! す、すいませんっ!」 失礼な事をしてしまったと、は赤くなった。 「あの、金色に輝いてとても綺麗だったもので、見とれてしまってって。本当にすみません。」 「いえ、褒めて頂いて光栄です。私はこの白羊宮を預かる、アリエスのムウといいます。」 「です。」 終始穏やかなムウに、はほっと安心した。 良かった、怒ってない。 次に向かうため、は軽く手を挙げて、沙織は笑みでムウに挨拶する。 また二人は長い階段を上って行く。 「沙織、これから会う黄金聖闘士って皆あういう鎧みたいなの着ているの?」 「そうですよ。あの鎧は黄金聖衣といいます。」 「星矢たちのとは全然違うのね。」 は銀河戦争の時の青銅聖衣を思い出す。 第二の宮、金牛宮が見えて来て、先程の白羊宮と同じように、入り口に人が立っていた。 段々その人に近づくと、 おっきいっ! その一言しか出てこなかった。 私達の前に来るとその大きい人は静かに膝をつき、頭を下げた。その姿は正に、主を敬う臣下の礼の様で私は見蕩れてしまった。 「顔を上げて下さい。アルデバラン、こちらの方が前にお話した、さんです。」 アルデバランはゆっくり立ち上がると、に視線を向けた。 「俺はタウラスのアルデバランだ。聖域へようこそ、。」 笑ったアルデバランは、途端に近寄り難さが無くなった。 (笑うとずいぶん人当たりの良さそうな顔になるのね。) もアルデバランに応えるべく、笑顔で挨拶をした。 「アルデバラン、さんとは明日ゆっくり話せますから、私達は先を急ぎますね。」 「沙織、明日って?」 「後で話します。」 沙織はにっこり笑うが、こういう笑い方をする時は、今は何を言っても聞く事は出来ないだろうと考え、それ以上は聞かなかった。 金牛宮を後にしながら、は眼下に見える白羊宮、金牛宮、頭上に永遠と並んでいる様に見える十二宮を眺めた。 (さっきの闘技場もそうだったけど、ここだけ時間が止まってるみたい。古代のギリシャかローマね。) 「さん?」 金牛宮を出てから黙ってしまったを気遣わしげに見た。 「んっ、いやね、カルチャーショックを受けてたの。ここだけ時間が切り離されているみたいでね。」 「そうですね。ここ聖域は世界がどのように変わろうと、昔のままです。」 「・・・・。」 そう言った沙織の表情は、遠い過去を見ているようだった。 (昔のままって、アテナとしての記憶を思い出してるのかしら。) 沙織から、自分は戦いの女神「アテナ」の生まれ変わりとは聞いていた。だからといって、今までの沙織との関係が壊れることはないし、これからも変わらないと思っている。 だが、先程の表情はの知っている"城戸沙織"ではなく、なにやら寂しさが湧き上がってきた。 (私の知らない沙織を見た気分だわ。) は沈みがちな気分を追い払い、努めて明るく振舞った。 「え〜と次は双子座だね。サガとカノンだっけ?」 「はい。でも、サガは教皇宮に居ますし、カノンは外に出てるので、今は双児宮は無人です。次の巨蟹宮も留守で、獅子宮はアイオリアがいます。」 「あ、アイオリアは知ってる。会ってないけど、前にジュリアン・ソロの誕生パーティーに、沙織の護衛で居た人ね。」 沙織は、その通りです。と頷く。 「今は戦いもないため、黄金聖闘士や他の聖闘士が常に聖域を護る必要もないんです。そのため大半の聖闘士は、自分の出身地や修行地に居ます。」 「ふ〜ん。」 「聖域に残っている黄金聖闘士は、さっき会いましたムウ、アルデバラン、ミロ以外ではサガ、アイオリア、アイオロスですね。シオンは現教皇ですけど、彼も黄金聖闘士です。」 沙織から聖域のレクチャーを受けていると、上から貴鬼が降りて来た。 「貴鬼〜。」 手を振って呼びかけると、貴鬼は嬉しそうに駆け降りて来た。 「沙織さん! お姉ちゃん!」 「もう荷物を置いて来たの?」 「うん! そんな事よりさ。早く上に行かないと日が暮れちゃうよ。」 貴鬼は得意そうに言っている。それが子供らしくて可愛く映った。 「仕方ないでしょ。聖闘士じゃないんだからそんなに速く上れないわよ!」 「へへ〜。おいらムウ様の所に戻らないといけないから、急ぐね。頑張ってね〜。」 またも貴鬼を見送りながら、確かにもう少し急いだ方が良いかもしれないと思う。まだ巨蟹宮を抜けたばかりで、頂上まであと八つもあるのだから。 Next メニュー |