ライトな二人ー32ー












聖域の着いたミロは正装である黄金聖衣を纏い教皇宮に入っていった。



「突然の任務ですまぬな、ミロ。」



ミロに言い渡された任務とは聖域に対して不穏な動きがあると報告された組織の解体、もしくは壊滅だった。

先に情報収集、調査を進めていた白銀聖闘士のアステリオン、アルゴルの二人が数日中に決行することを教皇に報告し、その為にミロが呼ばれた。



実質の戦闘要員である白銀聖闘士。

そして88いる聖闘士の最高峰である黄金聖闘士。



聖域を知る者であれば誰でも知っている事。

それら聖闘士が立ちはだかった。

その事実だけで聖域に牙を向けた組織は自制を失い自ら崩壊していった。


朝、日本から聖域に移動し勅命を受けたミロはその日の夜には任務完了を教皇シオンに報告していた。




任務から解放され十二宮を降りていく途中、が掛けてくれた言葉を思い出す。


"気を付けて"


ほとんど自分の手を煩わせることなく終わった任務だが、無事に終わった事をに早く知らせてやりたい。


早くに会いたかった。


遠い日本に思いを馳せていると、頭の中に突然声が響く。

(ミロ、聞こえるか。)

「カミュか!突然どうした。」

(任務は終了したようだな。)

「ああ、そうだが。一体どうした。」

アテナの事で何か急用だろうかと、ミロの顔が引き締まった。

(そうか。任務中でないなら言ってもいいだろう。)

「何だ?」

カミュからは危機感が感じられず、自分の考えは杞憂だったかと思う。

(おめでとう。)

「!!!」

歩を進めながらカミュの話に耳を傾けていたが、突如その歩みが止まった。

はたから見て分かるほどミロは顔を歪ませ、僅かに赤くなっている。

カミュの言おうとしている事がミロにはよく分かった。

「・・・・・っ、いきなり何だっ。」

明らかに動揺したミロにカミュから笑いが漏れる。

それがミロに伝わり憮然とした調子でカミュに詰め寄った。

「わざわざそれだけを言いに俺の思考に入り込んだのか。」

(怒るな。そのの事なんだが。)

""の名前にミロの表情がさっと引き締まった。

がどうかしたのかっ。」

(ミロが日本を経った後、と少し話す時間があったんだが、その時元気がなかったのでな。恐らくおまえ関連だと思ったのだ。)

「なぜ俺だと思う?お前が原因かもしれないではないか。」

(それはないな。)

ミロも本気で言ったわけではなく冗談だったが、あっさり否定するカミュに、内心この野郎っ、と思ったがまあいい。

(思い当たる事はないか?私が思うに・・。)

「カミュ。」

ミロがカミュの言葉を遮る。静かだが力を感じさせるミロ特有の声。

「俺がから聞けば済むことだ。知らせてくれて感謝するぞ。」

カミュには小宇宙を介してミロがにやりと笑ったようだった。

「今の時間、日本は夜か。」

ミロのその言葉を最後に、ミロの小宇宙が日本に向かって来るのが感じられた。






さん、まだ帰れないの?」

と一緒に最後まで残っていた同僚が帰り仕度を始めながら聞いてきた。

「あ、もう少し。コピー終わったら私も帰れるから、先に帰ってて。」

「そう。今日のさん、浮かれてたり沈んでいたり変だったよね。何かあったの?」

「え・・・、・・・うん。」

同僚の問いに答えられず固まったまま曖昧に答えた。

「ふ〜ん。じゃあ、お先に。お疲れ様。」

「お疲れ様。」

ドアが閉まるのを見て、は溜め息をついた。



「変・・・か。」

(ミロは今何してるだろう。ケガなんかしてないかな。)



「さ、コピー済まして私も帰ろう!」

部屋の中にあるコピー機に向かおうとしたが、ある事に思い至った。

「あ、ここのコピー機故障中なんだっけ。」

あ〜ぁ、と不満の声を上げたが、仕方がない。


は秘書課の部屋を出ると、同じフロアにあるが離れた場所にあるコピー機に向かった。

夜10時が近いため、もう殆どの一般職員は帰ってしまって人気が少ない。


「電気がついているとはいえ、やっぱり夜のビルは嫌だなぁ。」

誰も聞いてはいないのに、こういう時は何故か声にだしてしまう。


かなりの量のコピーを終えると足早に戻って行った。




「・・・まだ残っていたのか。」

いきなりそんな言葉が聞こえたかと思うと。

それはあまりに突然の事。

「え、ぅわっ!?」

目の前に自分を遮るように壁が立ち塞がっていて、は驚いて体を強張らせた。


(何っ!?暴漢!!ちょっとっ!!警備員は何やってるのよっ!!!)


思いつく限りの文句が頭の中を駆け巡ったが。

っ。」

名前を呼ばれた途端、は力強く抱きしめられていた。



バサバサっ。



突然のことで頭が真っ白になり、持っていたコピーの束が手からすり抜けていった。

「・・・ミロ。」

呆然と呟く。

「ああ、俺だ。」

耳元で、低いけれどよく通るミロの声がする。とても心地良い声。

腕の力が緩まない状態で、ミロの顔が見たくてそうっと顔を上げてみる。

ミロもを見下ろしていたため、二人の視線が合った。


どくんっ


の鼓動が大きく弾けた。

ミロと見つめ合うのにまだ慣れていないは、恥ずかしそうに視線を彷徨わせてとりあえず何か喋らなければと思う。この距離はとても落ち着かない。


「・・あ、いつ戻って来たの。もう終わったの?」

放心状態から落ち着かないようにそわそわし出した原因が今の体勢である事を知っているミロは、ゆっくりとに回していた腕を解いた。

はほっと安心したが、ミロは肩を震わせながら苦笑している。

「そんなに時間の掛かる任務ではなかったのでな。」

「そう。もう、何が可笑しいのよ。」

自分の落ち着きのない仕草にミロが笑っているのは分かってはいたが、何か言わずにはいられない。

「いや、素直な反応が可笑しくて。」

瞬間、真っ赤になり言葉を失う。

二人のいる廊下は並ぶオフィスの電気明かりが届かない場所のため、にはミロの顔がはっきり見えない。

ミロの方もそうだと思うが、きっとミロには自分が今どういう状態か分かっていると思う。

顔が上げられなくて下を向くと、落とした紙が散らばっていた。

そのまましゃがみ込んで紙を拾い始めるとミロも手伝ってくれた。

「俺が驚かしてしまったのだな。すまない。」

「本当よ。」

全部拾え終えると、は仕事場に歩き始めた。

「もう帰れるのか。」

「うん。このコピーの束を置いたら終わり。」

隣に並んでいるミロを見て気になっていた事を思い出した。

「ミロ、ケガは?」

「ん、ああ。ケガはしていない。ケガをするような任務ではなかったのでな。」

「良かった、心配してたのよ。」

「・・・・・。」

「・・・・・な、何?」

じっとミロがを見据えてくる。その強い眼差しにちょっと腰が引き気味のであるが、周りが暗いこともあり目を逸らさずにミロの視線を受け止められた。

やがてミロがから目を逸らすと。
「そうか、心配してたのか。」

独り言のように呟かれた言葉でミロが少し笑っているのが分かる。

「え、何?」

「なんでもない。」

(・・??。何なんだろう。)

何かミロが笑いそうなことを言っただろうか。

そこで会話が途切れてしまい、ミロの横顔を見る。

(やっぱりミロが何考えてるのか分からないや。もっともっと知りたいのに。)

でも。

朝分かれた時は会えるのはもっと先だと思っていたが、今ミロが傍にいる事にとても安心している自分がいる。

(あ、そうだ。)

「ミロ。」

「ん。」

「ケガがなくて本当に良かった。お帰りなさい。」

「・・・・・。」

(あれ?)

ミロはの顔を見るとまたすぐに前を向いてしまった。

これにはは少し驚いた。何かミロにとってまずい事でも言ってしまったのではないかと。

(何か変な事言ったかな・・・、あっ!"お帰り"って、ここ日本だって今のミロには仕事でいる訳だから、"お帰り"は変だよね。)

。」

失言だったかも、とがうな垂れているところへミロが声を掛けた。

「別にの言葉が変とは思っていないからな。あまり考えないように。」

「えっ。」

にやりとミロが笑っている。

「あ、分かっちゃった?」

「当然だ。」

そう言うミロは既に笑っていた。先程ミロから感じられた戸惑いのようなものは消えている。

やっと秘書課の前まで来た。普段はこんなに長い距離とは思わないが、今はやけに長い道のりだったとは思う。

「ほら、中へ。帰れるんだろう?」

「うん。」

「もう遅いから送って行こう。」

「あ、ありがとう。」

笑顔のミロを見て、今度はの方が戸惑う番だった。

(もしかしてミロって、冷静そうに見えて結構感情が出やすい?)

今までのイメージとは違う新しいミロが見れた事と一緒に帰れることになった事が嬉しくて、戸惑いながらも胸の中は喜び一杯のであった。






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なんだかな〜、な内容。ミロの微妙な心の戸惑いなんてものを書きたかったのですが、ダメダメ(・・・しょんぼり)。微妙な変化の表現て難しいですね。