ライトな二人ー30ー












総帥室を出たものの、そのまま仕事場に戻る気になれずフロアを歩いていた。

「今戻ったって、こんな顔じゃ皆に突っ込まれる・・・。」

ぼそっと自分の状況を確認してみた。


気持ちを落ち着かせて仕事に戻らないと。

この胸騒ぎのようなドキドキを抑えようと何度か深呼吸をしてみた。

腕時計を見るとまだ少し時間に余裕がありもう少し歩いてから戻ろうと思ったその時。


!」

名前を呼ばれたのと腕を掴まれたのがほぼ同時で、驚いて振り返った。


「・・・ミロ・・。」

驚きのあまり掠れた声しか出なかったがミロには届いたようだ。


「さっきのの様子がおかしいのが気になって来たんだ。」
これは嘘じゃない。


「あ・・あの・・。」
私の胸がまたドキッと跳ねる。

「昨日のお礼まだ言ってなかったね。ありがとう。」
さっきの自分の様子には触れて欲しくなくてわざと違う事を言った。

「そんな事はいい。」

「手離して。仕事に戻らないと。」

「離さない。」

また胸が跳ねる。しかも顔も段々と熱くなってきた。
「お願い。本当に戻らないと怒られるのよ。」

の両肩に手を置くと、ミロは自分に向き合うように引き寄せた。

ミロと真正面から見詰め合う形になりは思いっきり動揺したが、ミロは表情を変えず真剣なままだ。

「俺は知ってる。」

ミロの言っている意味が分からず、は目を瞬いた。

「何・・を。」

が俺を見るたびドキドキしていた事をだ。」

「!!」

「今もしてるだろ。」

今度こそ全身が心臓になってしまったのではないかと思うほど、の胸は鳴っていた。顔だけではなく耳まで赤くなってきた。

そんな事ないっ!!
そう言って否定しようにも図星なだけに何も言葉が出てこない。

ただ黙って下を向く事しか出来なかった。

「俺がギリシャに戻ると聞いて、寂しいと思ってくれたのか。」

ミロの声は優しく、まだ否定しようとする私の心を溶かしていくようだった。


下を向いたまま頷いた。
「・・・ミロが遠くに行ってしまうと思うとすごいショックだったの。」

「つまり、は俺の事が好きだと、そう思っていいのか?」


ここまできたら、ミロは私の気持ちなんてきっと分かってる。
恥ずかしさに真っ赤になりながら小さく声に出した。

「迷惑かもしれないけど、・・・・好き・・。」



言ってしまった。



ミロが吐息が聞こえた次に、私の両肩に置いていた手を離してくれた。

「ありがとう。」

「え。」

お礼を言われてバッとミロを見ると。
ミロはどこか照れているような表情で、初めて見るミロだった。

からその言葉が聞けて嬉しい。俺もの事が好きだ。」

「・・・。」
ミロは今何て言った?

私の事が好き?

「あの、ミロ・・・、え? えええぇぇっっ!!!」

今までの自分の緊張など吹き飛ばす勢いで声が出た。

「そんなに驚かなくてもいいだろう。」

苦笑気味のミロ。

「俺の気持が迷惑みたいに聞こえる。」

「ち、違う!そういう意味じゃないの!だって、ミロっては゛全然そんな素振りなかったから・・。嘘みたい。」

「まあ、俺の場合は悟られないようにしようと思えば幾らでも出来るからな、と違って。しかし俺も意思表示はしていたんだぞ。昨日とか。」


昨日。


-----誰にでもってわけではない-----


あれってそういう意味だったんだ。

「ほ、本当にミロは私の事、その、す、好き・・?」

"好き"っていう単語を言うのが妙に恥ずかしくてはっきり言えなくて。
最後の方は声が小さくなってしまった。


「本当だ。俺はこれから日本を離れる事になるから今度はいつに会えるか分からないからな。今俺の気持を言えて良かった。」


ミロが安堵したように言っているのが無償にうれしかった。
ミロの言っている事が嘘ではなく、本当だと伝わってきたから。


「私も、会えなくなる前にミロに私の気持を言えて良かった。」


互いの気持が同じである事が分かり言葉もなく見つめていたが、自分達には時間がない事にミロの方が先に我に返った。


。正直今は君の傍からは離れたくないが任務では仕方がない。」


任務、それを聞いて危険な場所に行くのだろうかと不安がよぎったが、ここでミロの任務について私が何かを言える訳ではなく、ただミロの無事をそっと祈るのみに留めた。


「私も同じだけど、仕方ないね。」

「近い内にまた会おう。会っていろいろ話したい。」

「うん。」

「では、俺はアテナの所に戻ってギリシャに向かう。」

「私も仕事に戻るね。気を付けて。」

行きかけたミロの足が止まる。

の自分を心配する言葉がミロの心に深く届いた。

黄金聖闘士である以上、危険や死といつも隣り合わせの任務の勅令・実行はミロにとってはごく当然な事であるが、その自分の身を心配する言葉など今まで聞いたことが無かった。

が自然に放った言葉は、ミロに喜びと新鮮な驚きを与えた。

ミロはに余計な心配をかけないよう優しく笑うと戻って行った。





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お互いどう思っていたか分かった二人ですが、まだ話は続きます。もう少しお付き合い下さい。