ライトな二人ー29ー








気を許せば出そうになるあくびを抑えながら、秘書課のドアを開ける。

「おはようございます。」

「おはようございます、さん。」

「何。眠そうね。」

「ええ、まあ。」

曖昧に返事をして自分のデスクに着くと、また声が掛かった。

さん。総帥が呼んでるわよ。」





業務が始まる前に話が終わるだろうかと考えながらノックをして総帥室に入ると、沙織が一人で椅子に座っていた。

「おはようございます。」

「おはようございます、さん。お仕事前にお呼びしてしまってすみません。」

「ううん、大丈夫。それより何か話?」


深く考えずに聞いたが。
沙織が静かに言葉を紡ぎだしたその内容に、私の鼓動が無意識に大きく跳ねた。



「ギリシャに帰る・・・。ミロだけ?」

沙織は頷きながら。
「ミロには別の任務を頼みたいと聖域から連絡があったので、ミロだけ先に帰国していただきます。」

「そ、そう。」


ミロがいなくなる。
そう考えただけで胸が苦しくなる。

寂しさは勿論感じているが、それよりもっと驚いたのは自分がかなりショックを受けているという事だった。


沙織から聞かされたミロの帰国に頭の中が真っ白になり、うるさいくらいに鳴っている自分の心臓の音だけがやけに大きく聞こえていた。





コンコン

「はい。どうぞ。」

入って来たのはシュラ、カミュ、ミロの3人。

私の視線の先にはミロ。
ミロも私を見て微笑んでくれた。でもすぐに怪訝そうな表情になる。

頭が真っ白になってる今の私、きっと呆然とした顔をしてると思う。


普通に笑って3人に、おはよう、て言いたかったけど。

出来なくて。

「沙織・・。もう、戻るね。」

3人には軽く頭を下げて、私は何も言えず足早に部屋を出ていった。

は一体どうした?」

の後姿を見送り、様子がいつもと違う事にシュラも気が付き、首を傾げていた。

「3人ともお早うございます。」

沙織の挨拶に3人の背が伸びる。

「ミロ。」

「はっ。」

「ミロには別の任務が入ったと聖域から連絡が来ましたので、急で申し訳ありませんが、聖域に戻っていただきます。」

突然のギリシャ帰りにミロは驚いたが、そこは黄金聖闘士。驚きなど露も見せず涼しげに了解の意で頷く。

沙織も伝達事項を伝え終えるとリラックスしたように椅子に座り直すとイタズラっぽさを湛える目でミロを見た。

そんな沙織の変化を察知した3人は、何かあるのだろうかと主君の言葉を待つ。

「実はですね。」

「はい。」

「皆さんより先に、さんにもお知らせしたのです。」

さっきのの様子を思い出し、ミロの表情が変わった。

「そうしたらあの様子です。」

沙織はミロにだけに話し掛けているようだった。シュラ、カミュは黙って聞いている。

「ミロにはすぐにでもギリシャに向かって欲しいそうです。時間がありませんし、何より今度いつ会えるか。」

上目使いでミロを見る。

何を言いたいのか分かりますね?
沙織の目はそう言っていた。

沙織の意図が分からないミロではない。

フっと笑ったのは一瞬。すぐにその表情を引き締めた。

「アテナ。少しのお時間を頂きます。」

「はい。」

沙織は満足そうに微笑んだ。

沙織に一礼するとミロは廊下に出て行く。

の気配を探すとすぐに見つける事が出来た。

秘書課の方に戻っていると思っていたがそこにはおらず、全く別の方向に居た。



アテナがくれたチャンス。
これを逃したら、俺達の関係はずっとこのままかもしれない。

それは困る。




君を捕まえる





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