ライトな二人ー28ー









少し遅れて城戸邸に着くと、タイミング良くドアが開き、執事である辰巳さんが立っていた。

「こんばんは、辰巳さん。」

「よく来たな。さあ、入ってくれ。」

通された部屋に入ると沙織がソファに座り星矢と話をしていた。

入って来た私に気付くと。

さん!いらっしゃい!」

ソファから立ち上がり、傍に駆け寄って来ると私の腕を取って部屋の中に招きいれた。

沙織の他には星矢、紫龍、氷河、瞬の四人がいた。

「あれ?シュラ達三人はここには居ないの?」

いつも沙織の周りに居るはずの三人の姿が見えず、不思議に思った。

「屋敷内には居ますよ。ただ、特に、シュラがちょっと口煩いので席を外して貰いました。」

事実を正直に言った沙織に、吹き出した。

「まあ、確かにね。」

ミロがいるかもしれないと少し緊張していたは、内心ほっとしていた。せっかくの沙織と気ままに話せる時に、ミロがいては絶対自然に話せない。

ソファに座ると、テーブルに用意されている物が目に入った。

「お酒準備してくれたの?」

「ええ。さんの好きなカクテルをいくつか。」

「でも飲めないわよ。車で来たんだから。」

「俺が代わりに飲もうか。」

「何言ってんのよ、星矢。あんたは未成年でしょうが。」

の一刀両断に星矢は膨れっ面を見せた。

「この濃い色のお酒はなんていうんですか。」

瞬が一つのお酒を指さした。

「カルーア・ミルクっていうの。コーヒーのお酒で牛乳で割るのよ。」

「へ〜、コーヒーのお酒なんてあるんだ。」

「甘くて美味しいんだけどね。今日は残念ながら飲めないわね。」

「帰り、送りましょうか?」

氷河が願ってもない申し出を言ってくれた。

「え、いいの!」

「そうですね。その方がいいですよ。僕も一緒に行くよ、氷河。」

「えへ。じゃあ、飲んじゃおっかな。」

21歳の大人が13・4歳の少年に帰りを送ってもらうとは普通だったら逆な立場だが、瞬と氷河ならそんな事は気にならず安心できる。

何といっても、聖闘士だし。

帰りの心配がなくなったは、笑顔満面で飲み始めた。







「沙織、そろそろ帰るね。」

時計を見れば23時も近い。

「やはり泊まっていったらどうですか?」

瞬と氷河に送ってもらうとはいえ、時間も遅い事もあり、沙織は心配そうに言った。

「大丈夫、大丈夫。
 瞬、氷河、お願いね。ちょっと遠いけど帰れない距離じゃないし。」

送ってもらえると決まってから、お酒はそれなりの量を飲んだため、ほんのり顔が赤い。

「何を言っているのだ。瞬と氷河は車の運転が出来ないだろう。」
カミュがまったく、という風に私を見ている。


いつの間にかカミュが部屋の中に入っていた。
後ろを見るとミロの姿も見える。


(あれ?いつの間に・・・。)
「え?それは分かってるけど。だから歩いて帰るんじゃない。」

三人で歩いて帰るんだけど?

「車なら我々が動かせる。ミロに送ってもらうといい。」

ミロが反応してカミュを見る。

(ミロに!!)

ミロと聞いてびっくりした顔ではカミュを見た。

ミロ、の二人の視線に挟まれたが、カミュは気になどならなかった。

カミュに向いたまま動けず呆然としていると、肩をトンと押された。

「何ぼうっとしてるのさ。見た目以上に酔ってんじゃないの、さん。俺たちと歩いて帰るより車で送ってもらった方がいいよ。」

「せ、星矢っ。」

私の動揺を知らない星矢は笑いながら言ってくれる。


「行くぞ、。」

「・・・う、うん。」

ミロに促され緊張度が増したはぎくしゃくとした足取りで外へ向かった。

(送ってもらうだけなんだから!もっと自然に歩けっ、私!)

「アテナ。行ってまいります。」

さんをお願いしますね。」

ミロもを追って部屋を出ようとしたが、立っていたカミュに視線を送ると。


(気付いていたのか、カミュ。)

(薄々は。おまえに振っておいて言うセリフではないが送るだけにしておけ。)

(誰に言っている。)


一瞬で交わされた二人の会話に他の者が気付くことはなかった。




さん、緊張してなかった?」

ミロが出ていくと、瞬が首を傾げながら言った。

「そうか。まあ、ぼうっとはしていたけどさ。」

「仕方ありません。ミロに送ってもらうんですから。」

四人はくすくす笑う沙織を不思議そうに見た。

「分かった!ミロってスピード狂なんだ。車のスピードなんて黄金聖闘士にとっては止まっているのと同じなんじゃないかな。」

「そうなのかな?」

「そうなんですか?沙織さん。」

「さあ、どうでしょう。」

星矢の見解が可笑しくて、沙織は笑うのを止める事が出来なかった。









「道案内頼む。」

「・・・はい。」

城戸邸を出た車はミロの運転でのアパートに向かっていた。

しん、と静まりかえっている車内。
この限られた空間の中でミロと二人きり。

それもこんな近くにミロを感じて、は落ち着かなかった。

自分の心臓の音がやけに大きく聞こえているのがますます落ち着かせなくなっている。

(さっきから頭の中ぐるぐる回ってるけど、緊張のせいで酔いがまわってきた?)


ミロも黙ってハンドルを握っているが、の緊張が否応無く伝わってきて心の中で溜め息をついていた。

(カミュの奴、こんな状態のに何が出来ると言うんだ。)

しかしミロの方もこの空気は気まずく、このままの状態では辛い。

「何故、アテナのもとに泊まっていかなかった。」

「えっ!!」

突然のミロからの質問にがばっと勢い良くミロの方を向いてしまった。

「え、ああ。泊まっていかない理由?」

「そうだ。アテナとの会話でも、何時も泊まっていない感じだったが。」

あれほど仲が良いのに、と不思議に思うミロだった。

「うん。そうね。でも泊まらないのは次の日が仕事に時だけよ。休みの時は泊まる事もあるの。次の信号、右に曲がって。」

「何故だ?」

は少し考えると、言葉を選びながら話し始めた。

「私の父は城戸光政の弟なの。」

「知っている。」

ギリシャで聞いた。

「就職先がグラード財団で、私は現総帥の血縁者。それを良く思っていない人もいるのよ。」

ミロは黙って聞いていた。

「特に何をされたって事はないけど、そういう事って不思議と本人に聞こえてくるのよね。それが悔しくて、家も出て一人暮らしを始めたの。だから城戸邸から出勤っていうのはなるべく避けてわけ。」

「アテナは知っているのか。」

「勿論知ってる。だから、私を無理に引き止めないようにしてくれてる。」

初めて聞いた自身のことに聞き入っていたミロだが、いつの間にかの緊張が解かれている事に気付いた。






「ありがとう、ミロ。」

「いや。このくらい何ともないさ。」

「ミロ、歩いて帰るの?」

「まあ、そうなるな。」

「ごめんなさい。歩くとなると結構な距離なのに。」

こそ最初はその距離を歩いて帰る気だったではないか。
の言い方がミロにとっては可笑しい。

自然と笑みが広がる。

「大丈夫だ。歩くといっても本当に歩いて帰るわけではないぞ。」

が、あっ、という顔になった。ミロが普通でない身体能力の持ち主である事を忘れていた。



車から降りると足元がふらついている。

「やっぱり酔いがまわってる。」

の呟きが聞こえたミロは少し心配そうにの方を見た。

、歩けるか?」

「うん。ゆっくり歩けば平気。」

ミロに手を振りながら階段に向かって行った。

「じゃ、おやすみなさい。ミロ。」

「おやすみ。」

ミロの目から見ても明らかにふらついているを放ってはおけず、部屋に入るまで見届けようと思った。


後ろのミロが気になり顔だけでちらっと後ろを振り返ると、まだミロがこちらを見ている事に気が付いてドキっとした。

紛らわすように再度手を振ろうと体をひねった途端、後ろに向かってバランスが崩れた。

「ぅわっ!」

落ちるっ!、と体を硬くしたが、その体が地面に落ちることはなく、覚えのある腕に支えられた。

ミロが支えてくれたのだとすぐに分かり、瞬間一気に鼓動が早鐘を打ち始めた。

(うわっっ!!どうしようっっ!!)



「まったく。」

がパニックになっていると、上から溜め息まじりの呆れたようなミロの声が降ってきた。

「おぼつかない足取りだったから心配して見ていたら、予想通りだったな。」

それを聞いたは目をパチクリさせた。
心配してすぐには帰らずにいてくれたのだと知って。


ミロの気遣いに、の中で何か温かいものがじんわりと広がっていく。

慎重に自分を立たせてくれたミロ。

「あ、ありがとう。」

声の調子から、呆れているだろうと思ってミロを見ると。

階段の段差で同じ高さにいるミロは笑っていた。
それも優しい笑顔で。

目を逸らせないまま魅入っていると、ミロは突然いたずらめいた笑顔に変えた。

「そんなに見つめられると、動けないんだがな。」

「ご、ごめんなさいっ。」

恥ずかしさにうつむいたの手を取ると、そのまま階段を上って行く。

「ミ、ミロ!?」

「また落ちかねないから、部屋の前まで一緒に行こう。」

「・・・・・優しいのね。ミロって。」

「誰にでもってわけではないが、そう思ってもらえて光栄だ。」

ミロの言葉に、は目を見張った。今の言い方が、まるで自分に対して言っているように聞こえたから。


さっきからドキドキしずぎてる。

私がミロの事を好きだからかもしれなけど、ミロの方が私がドキドキするような事ばかりしている気がするけど。

私の事、ミロはどう思ってるんだろう。

ミロの手の温かさを感じ、少し前を歩くミロを見ながら考える。

部屋の前に着くと、ミロは手を離した。

「じゃ、本当にこれでおやすみだ。」

「うん、おやすみなさい。ありがとう。」

階段を降りて去っていくミロをいつまでも見送っていたくて、姿が見えなくなるまでずっとミロの後姿を見ていた。

途中、の視線に気付いたミロが手を上げて応えてくれた。

ミロの姿が見えなくなったのを確認してから、部屋の中に入って行く。







眠る準備が出来て、布団に入るまでの間、ずっとミロの事が頭から離れずにいた。



ミロの事は好き。
これはもう、隠しようがない事実。


じゃあ、ミロの方は?
私の事をどう思ってるんだろう。


ミロの邪魔にはなりたくないから、期待は持たないようにしているけど。

今日みたいに優しくされると、期待してしまう。



---誰にでもってわけではない---



「じゃあ、私はどれに入ってるっていうの!」


ガバッと起き上がって大きな声を出しても答えなんて出ない。


「ああぁっ、もうっ!! 眠れないっ!!」

また布団を被り直してベットに潜るが、当分の間眠れず、寝返りばかり打つはめになってしまった。

ようやく眠りにつけたのは、普段起きる3時間前だった。






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最初に考えていた流れでは、ミロとさんはもっと密着する予定だったんです。しかもさんの部屋の中で(おおっ!)。しかもさんは感極まって泣いてしまうし(どんな内容だったんだ)。
でもそれだと、この話で私の目指すミロとの恋愛が表現出来ていない事に気が付いたのです。
明るいミロとさんの関係を書きたいのですよ。そのためメニューにあった27話の"嵐の前の静けさ"というのもはずしてしまった事になるるる〜。全然嵐なんて来ません(ーー;)