ライトな二人ー22ー







・・・んん〜・・・。

喉の渇きで目が覚めた。

・・・何時だろ・・・。

お水を飲もうとゆっくりベッドから起き上がる。

視界に入る明るさはいつもの朝と同じ明るさだ。丁度良い時間らしい。


あれ?
着替えないで寝ちゃった?


は日本から持ってきたパジャマではなく、昨日着ていた服のままだった。

昨夜の事を思い出すが、最後は酔いを醒まそうとバルコニーで寝てしまった所までしか思い出せない。

「誰かが運んでくれたのかな。」


確か。

・・・ミロの夢を見た・・。

夢の中のミロと・・・。

夢の中でミロと何をしたのか思い出して私の心臓が大きく飛びはねた。


わ、わ、わ、私っっ!ミロとキスしたっ!!


全身が熱くなった。

どうして!なんでそんな夢っ!!

夢のはずなのに、喉の乾きも忘れて唇に残る記憶が繰り返される。


今日帰るんだから、しっかりしろ!

夢の中のミロに振り回されちゃダメよ!


コンコン。

自分の世界にトリップしていたため、ノックの音に飛び上がるほど驚いた。

さん。もう起きています?」

沙織。いつもは女官さんが起こしに来るのに。

私は出来るだけ平静を装ってドアを開けた。

「おはよう、沙織。」

「・・・さん。」

私を見た沙織がちょっとびっくりしている。

「何?」

「昨日のお酒がまだ残っている感じです。」

「あ、やっぱり?昨日随分飲んじゃったから。」

「もう、だからバルコニーで眠ってしまうんですわ。」

「えっ、どうして知ってるの?」

昨夜、行き先は誰にも言わずに酔いを醒ますため部屋を出たはずだけど。

「知っていますよ。途中、さんの姿が見えなくなったので探したらバルコニーに居たんですもの。」

「探してくれたの。」

「聖域での最後の朝食ですね。部屋で待っているので来て下さいね。」

踵を返しながら言って行く沙織を慌てて止めようとした。

「沙織っ、私を部屋まで運んでくれたのって誰っ・・・。」

言い終わらない内に沙織の姿は消えていた。

「まさか君じゃないでしょう?とりあえずシャワーね。」

汗を流すべく部屋に戻って行った。






来た時と同じく、ジェット機で帰るため闘技場に黄金聖闘士たちがアテナとの見送りに集まっている。

星矢たち青銅四人もと一緒に帰る事になった。

「もっと聖域に居られたら良かったのにな。」

「うん、でも仕方ないよね。アイオリアもまた日本に来る機会があるんでしょう?」

「たぶんな。」

「その時にまた会いましょう。他の皆も。」

は一同を見渡すとにっこり微笑む。

その中にミロもいるが、は顔を合わせる事が出来ないでいた。

どうしても夢の事を意識してしまう。

「シオン、先程の話、お願いしますね。」

「はい、アテナ。」

沙織とシオンの会話が聞こえたが、その内容からすると沙織がシオンに何かを頼んだらしい。

アテナと教皇なら相談事をしても可笑しくないけど、妙に興味が掻き立てられた。

二人が離れた後、そっと沙織に近づいて聞いてみる。

「ねえ、沙織。シオンに何頼んだの?」

「ん?大した事ではないんですが。気になりました?」

「うん。」

女ボスとその腹心の会話みたいで、とは言えなかったが。

「本当に大した事ではありません。さ、参りましょう。」

私と星矢たちを促して沙織はタラップを上がって行った。



。」

「っ!!」

呼ばれた声にどっきりした。

聞こえない振りなど出来ず、ゆっくりミロに振り向いた。

「ミロ。」

「帰ってしまうのだな。」

・・・帰って・・。

夢のミロもそんな事言ってたな。

「また会えるよ。」

「ああ。今度はがギリシャまで迎えに来てくれ。」

「ふふ。沙織がそうしろって言ったら来るかもね。」

もアテナには弱いのか。」

私達は自然と握手を交わした。





ミロは遠くなっていくジェット機を黙って見つめている。

黄金聖闘士たちはそれぞれ自宮に戻って行くところだが、デスマスクがミロの横に立ち、習って空を仰ぎ見た。

「アテナのお気に入りだろ。遊びで手出したらどうなる事やら。」

笑いを含んでいるデスマスクに視線を向ける。

「何の事だ。」

「何の事って、昨日の事だよ。」

デスマスクがにやりと笑う。

「分からんな。」

デスマスクに背を向けてミロも自宮に戻ろうとする。

「おいおい、しらばっくれる気か。」

「はっきり言っておくぞ、デスマスク。」

デスマスクに向き直したミロが睨むような鋭い気を放つ。

「俺は遊びで手を出す気はない。」

それだけを言うと、ミロはさっと歩き出して行った。

残されたデスマスクは呆気にとられていたが、すぐに口端を上げた。それはからかいをを含んだ笑いではなく、ミロの言葉に満足したような笑いだった。







機内では、星矢たちと沙織の五人がまとまって楽しそうの話していたが、だけはその中に入らず一人で窓の外を眺めていた。

どこかぼんやりした様子で。

窓から目を離すと、今度は右手をじっと見つめる。

去り際にミロと握手を交わした手。

ミロの手の暖かさと力強さを感じた。

そのミロを感じた右手を自分の頬にそっと触れると昨夜の夢を思い出す。

夢でも頬にミロの手を感じた。

はぁ、と溜め息が漏れる。

せっかく楽しいお酒の思い出を最後に日本へ帰れると思ったのに。

鮮明に思い出されるのはミロの事ばかり。

また溜め息が漏れる。

「気分でも悪いんですか、さん。」

「!」

驚いて顔を上げると、氷河が傍に立っていた。

見ると沙織たちも私の方を見ている。

「あ、違うの。」

皆に心配かけないよう、ばたばたと両手を振る。

「日本に帰ったらまた仕事漬けになると思ったら滅入っちゃっただけ。」

「そうですか。ならいいんですが。」

「ごめんね氷河。ありがとう。」

すまなそうに言うと氷河は、いえ、それじゃあと自分の席へ戻って行った。



帰ったら、仕事頑張ろう。

ギリシャを離れて。

いつもの日常に帰れば、ミロのこともきっと良い思い出になる。



日本まで、あと数時間。





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私の中では第一部・完、といった感じです。