「ここって・・・」 ミロに抱きかかえられたまま塀の中に入ったは、その中に佇む屋敷に見覚えがあった。 (時々テレビで見る。) なぜこの人攫いの男がそんな有名な敷地内を我が物顔で移動しているのか不思議だった。 はまたミロの顔をじっと見つめた。 「この屋敷を知っているのか?」 ミロに顔を合わせられたは咄嗟にうつむいた。 「有名だもの。グラード財団の城戸邸でしょう?」 気が付くと正面玄関の前まで来ており、驚いたことに、ミロは自分の家のように躊躇せず扉を開けている。 ミロはを降ろすといつの間にか用意されていたのか、スリッパを出してくれた。 (この人、こことどういう関係なの。) が疑惑の目でミロを見ているとミロが面白そうに振り返った。 「そんなにオレの事が気になるか。」 言いながら、ミロはの背に手を回して屋敷内に招き入れた。 可笑しそうに笑っているミロに、の鼓動が大きく跳ねた。 (かっこいい・・・。) さっきもそう思ったが、明るい照明に晒されたミロの顔に見惚れて言葉が出て来ない。 ミロに歩くように促され、も大人しくミロの後について歩き出した。 が自分に見惚れているとは知らず、何も言わないは突然の事で戸惑っていると思ったミロは、優しい口調で話しかけた。 「何も心配するな。この屋敷の主人は君をどうこうするためにオレに連れて来るように言ったわけではない。その様な事が出来る方ではない。」 沙良の目が大きく見開いた。 「この屋敷の主人って、・・・あの城戸沙織さん・・・?」 恐る恐る聞くとミロは、実に短くさらっと肯定した。 「そうだ。」 「なんでそんな人が私をっ!?」 グラード財団総帥が私に何の用なわけっ!! 「オレも詳しい事はお聞きしていないから、ここで説明は出来ないが明日まで待ってくれ。沙織嬢からお話がある。」 (城戸沙織さんから話っ!!!) もう何度目かの驚きだったが、それ以上に気になる事が。 (本当にこの人と城戸沙織さんて一体どういう関係なの。) この青年の城戸沙織さんに対する言葉使いは普通ではない。 これまた何度目かの凝視にミロが顔を綻ばせた。 「君はよく人の顔を見るんだな。」 ミロの指摘にじっと顔を見ていた事に気が付き、の頬が染まっていった。 「あっ、ごめんなさい。」 「いいさ。何も説明がないから気になるのだろう?。無理もない。」 ミロとは一つの扉の前に着いた。 「沙織嬢からこの部屋を使うように言われた。今夜は突然の事で疲れただろう?ゆっくり休んでくれ。」 ニコっとミロは笑うと元来た廊下を歩いていった。 「では明日な。おやすみ。」 「あ、・・・・・。」 は名前を呼ぼうとしたが、青年の名を知らない事に気付いた。 名前を聞こうかミロの背中を見ながら迷っていると、ミロの姿は見えなくなってしまった。 「・・・おやすみなさい。」 ぽつりと呟いて、用意された部屋の中に入っていった。 とんでもない事になった、と溜め息をつきながら。 何度目かの寝返りかを数えるのも飽きてきた頃、窓の外が明るくなり始めた。 (やっと朝・・・。) 私をこの屋敷に連れてきたあの人と別れたあと、素直にベッドに入ったけど。 これからの事が気になって全然眠れなかった。 このまま横になっていても眠れないだろうと、いつも起きる時間よりかなり早いけど起きることにした。 「よっと。」 掛け声と一緒に起き上がり、床に足をつけた途端、あ、と思った。 起きたはいいものの、次の行動へ移れない事に気が付いた。 ここは自分が生活している部屋ではない。 自分の部屋であったら出来る着替えや洗顔が出来ない。 「はああぁぁ〜。」 自分でも情けない声を出したと思う。 室内を見渡すとクローゼットが目に付き、もしかしたら服が入っているかもと考え、失礼と思いながらも開いてみると。 「やっぱり服だ。」 それも1着2着ではなくかなりの数だった。 「でも、これを勝手に着るわけにはいかないわよね。」 サイズも合うかどうか分からないし。 パジャマのままでこの広い屋敷内を出歩く気にはなれず、この部屋にいる以外なかった。 とりあえず椅子にでも座ろうと、腰かけると段々と落ちついて、昨夜の事がはっきりと思い出されてくる。 私を軽々と抱き上げた、端整な顔の人。 (外国人だったけど日本語上手だったな。) 下から見上げた顔や、後ろ姿が何度も脳裏をよぎっていく。 しばらく昨夜の事を思い返していたら、控えめなノックの音で我に返った。 (え、誰っ。まさかあの人っ。) だとしたら困る! 寝起きの顔だし、さっきまでその人の事考えていたばかりで本人と顔を合わせるのは恥ずかしい。 そう考えてすぐに返事が出来ないでいるとドアの向こうから女の人の声がした。 「起きていますか、さん。」 「・・・はい。」 「入っても大丈夫ですか?」 「どうぞ。」 (良かった、女の人だ。) 入って来た女の人は、私とそう歳が変わらなく見えた。 「おはようございます、さん。」 「おはようございます。」 笑顔一杯で挨拶をしてきた人につられて私も笑顔になる。 「お食事の用意なんですけど、この部屋に運びましょうか。それとも沙織お嬢様とご一緒に召し上がります?お嬢様はご一緒にと仰られていますが。」 「一緒!?あの、できればこちらに運んで欲しいのですが・・・。」 ただえさえ緊張しているのに、総帥と一緒に食べたら喉に通らない! ふっと笑った女の人は、 「分かりました。ここに運びますね。あちらのドアがバスルームに続いてますので使ってください。一応化粧品も何種類か準備してあります。あとはクローゼットに入っている服はさんに用意したので中から好きなのを選んでいいとお嬢様から言われています。」 「え!着ていいんですか?」 「はい。サイズも全てさんに合うように用意してあります。」 はっ? サイズもっ?!どうしてっ?! 女の人は、失礼します、と言い残して部屋を出て行ってしまった。 用意周到さに呆然とした私だけど、逆に怖くなってしまった。 ここまでされて、一体何の目的で連れて来たんだろう。 「私、どうなっちゃうの。」 出したくなくても溜め息が出てしまうだった。 運ばれた食事を終えると、今度はさっきの女の人とは違いスキンヘッドの強面の男の人が来た。 「お嬢様からお話があるので一緒に来てもらおう。」 いよいよだ、と言われた通り後ろからついて行くと、そこはリビングのような広い部屋だった。 中には髪の長い美少女が座っていて、すぐ後ろに昨夜の男の人が立っている。 二人の立ち位置がすごく自然に見えて、案内をしたスキンヘッドの男の人が居なくなったのが気付かないくらい見惚れていた。 「はじめまして、さん。城戸沙織といいます。」 椅子から立ち上がった美少女・沙織さんの声は13歳とは思えないほど大人びていて優しい声だった。 「・・・はじめまして。です。」 私は目の前の少女に圧倒されているのを感じた。 「こちらに座ってください。さんにはいろいろと話をしなくてはなりません。」 指し示された椅子にが座ると、ミロが口を開いた。 「アテナ。私は外で控えています。」 これから話される主の邪魔にならないようとする配慮であったが、沙織は出て行こうとするミロを止めた。 「いいえ、ミロ。あなもここで話を聞いてください。」 目が離せないまま見ていたは、二人の普通でない会話に驚いていた。 昨夜から、今ミロと呼ばれた人から感じていた沙織さんへの言葉使いの特殊さは今日も変わっていない。 実際沙織さんとミロが話す情景はまるで。 (お姫様とその騎士みたいっ!) 「ミロも座ってください。」 沙織に言われるまま、ミロも椅子に座る。 沙織はに向き直ったが、そのが自分をじっと見つめている。 「どうしました、さん。」 声をかけられて遠慮なく見ていた事には気が付き、慌てて謝った。 「あ、すみませんっ。ただ、二人の会話が、お姫様と騎士みたいだなぁ〜と、素敵だったもので。」 照れながら言った私に、沙織さんとミロは一瞬驚いたような顔を向けた。 確かに、沙織は「女神アテナ」で、ミロはアテナを護る「聖闘士」だ。そこにが言った「お姫様と騎士」のような甘い響きはないが、当たらずとも遠からずの表現だった。 「ふふ。嬉しい事を言ってくださるのね。」 「す、すいません。変な事を言ってしまって!」 「変な事ではないですよ。そのお姫様というのは私ではなく、むしろさんかもしれないのですよ。」 「えっ。」 沙織さんの言葉に驚き、見ればミロも私と同じように驚いて沙織さんを見ている。 私とミロの視線を気にした様子もなく、沙織さんは続けた。 「ミロの紹介がまだでしたね。ミロ、お願いします。」 言われて気を取り直したミロは私に向き直ると。 「俺はスコーピオンのミロだ。昨夜は突然ですまなっかた。」 「です。」 (スコーピオンっ?って何?それに沙織さんの事「アテナ」って呼んでたよね・・・。) 「さん。」 「は、はい。」 沙織さんの口調が突然真面目なものに変わり、背すじがぴっと伸びた。 「本題に入る前に、私とミロが身を置く世界について説明します。これから話す事は作り話ではなく事実である事を言っておきます。」 「はい・・・。」 話す声に力がこもるのが分かって、沙織さんが真剣な事が伝わってきた。 話はギリシャ神話から始まった。 ギリシャ神話は有名な神様なら分かったから、最初はすんなり沙織さんの話を聞いている事が出来たが。 次第にそういう話ではなくなって来た。 全てを話し終えた沙織はもちろんの事、ミロもの反応を伺っていた。 「あの・・・、沙織さん。」 「はい。」 「今の話からするとアテナはギリシャにある聖域という所にいるはずなのに、沙織さんはどうして日本にいるんです?それも"城戸沙織"という戸籍もどうしてあるんですか?」 が知っている限り、まだ幼い「城戸沙織」という人間を雑誌なので見たことがある。今ここにいる「城戸沙織」は最近になってどこから来たのではなく、間違いなく「城戸光政の孫娘」として13年間、世間に認知されているはずだ。 その沙織がどうしてアテナなのかが、には分からなかった。 「聖域で育つはずの私が何故日本で"城戸沙織"としているか、という疑問ですね。」 私は頷いた。 「それは、13年前、私が聖域にいられないアクシデントが起きたのです。そのアクシデントから逃れるため、私は城戸光政の孫娘として育てられたのです。」 黙って聞いている私に沙織さんは嬉しそうに笑いかけた。 「でもさん。そう疑問に思うと言う事は、今話した事を信じてくれるという事でしょうか。」 「ええ、まあ。冗談を言っているようには見えませんでしたから。それに、ミロの事も。」 ちらっとミロを見ると、「何だ」というように私を見ている。 「私を抱えて10階から飛び降りるなんて普通では出来ないけど、話に出てきた聖闘士なら出来るかな、と思ったもので。」 「さんがそう思ってくれているなら良かった。では、何故さんをここに連れてきたかお話しますね。」 そうだ。それが一番聞きたかった。 「それと、ミロ。これはあなたにも関係がある事です。」 自分に関係がある話。その瞳は明らかに驚きを隠せないでいたが何も言わず主の言葉を待った。 「私は約二百余年の周期で地上に生まれ落ち、最大の敵であるハーデスと戦いますが、敵はハーデスだけではありません。大きな敵はそれなりに早く感知できますが、そうでない微弱な敵もいるのです。大概そういう物は殆ど感知出来ずそのまま放置されてしまうのですが、厄介な事にそういう物に限ってお互いを引き寄せてしまうのです。お互いが引き寄せあい、また別のところで引き寄せ合う。それが繰り返され、気が付くと大きな力を持ってしまうのです。」 沙織は一旦言葉を切る。 「そうなる前に、力が微弱な内に倒すのが良いのですが、それでは数が膨大過ぎて一つ一つ倒していくのは効率が悪いです。」 ミロと私はそれぞれ頷く。 「そこで何代か前の私、アテナは考えました。各大陸に邪悪を鎮める場所を幾つか設け結界を張ったのです。」 少し息を吐くと再び続ける。 「その場所を鎮める役目は、その時代の黄金聖闘士が担っていました。そして今その役目があなたです。ミロ。」 ミロは今度は驚かず、当然とばかりに笑みをたたえている。 「その役目、仰せつかりました。」 まるでこれから敵地にでも赴くようなミロに目を見張っただった。 でも、この話が私に何の関係があるのかさっぱり分からない。 「しかし、ミロ。あなただけではその場所を鎮める事ができません。"鍵"が必要なのです。」 何だか私に向かって雲行きが怪しくなってきたような。 「"鍵"とはつまり・・・の事なのですか。」 と沙織さんミロが私を見る。 「無理ですっ!!」 とんでもない事に巻き込まれようとしている事が分かり、私は強く拒絶を表した。 「さん、"鍵"というのは・・。」 「無理です!無理です!」 「おい。すこしは・・。」 「無理です!無理です!!無理です!!!」 は肩で息を整えている。その目にはわずかに涙が滲んでいた。 「さん。」 何も知らないが、自分が"鍵"と知る時は抵抗や拒否されるのは沙織も予想はしていたが、ここまで強く拒否されるとは思っていなかったため、沙織も戸惑っていた。 「さんが戦うのではないのですよ。誤解を解くためにも話を聞いてくださいますか。」 落ち着かせようと柔らかく話す沙織に、自分の方が年上なのに取り乱してしまった事に恥ずかしく思い、とりあえず自分も落ち着こうと沙織に向かって頷いた。 話を聞いてくれる気になったに、沙織はほっとした。 「実は、その時代によって一人の時もあれば二人の時もあるのです。この任に就く黄金聖闘士は信託によって決まるのですが、今回はミロともう一人、さんが選ばれました。」 「私とはそれぞれ違う役目があると?」 「そうです。邪悪を倒す、つまり鎮めるのは黄金聖闘士であるミロですが、邪悪を封じている結界をどうにかしなければいけません。結界を開くか壊すか、出来るのはさんです。」 部屋に沈黙が流れる。 「さん、どうでしょうか。」 沙織さんの話ではそんなに危険な感じではない。でも踏ん切りがつかない。 「本当に私なんかに出来るのかが信じられません。」 「信託がを示したのなら本当なのだろう。これはにしか出来ない。」 私の目を見て、はっきりとミロは言う。 「でも・・・。」 「怖いか?」 「それは、当然怖いわよ。」 こんな訳の分からない事、怖くないわけないでしょっ。 「俺がを護る。」 「え。」 また私の目を見て、はっきりと言った。 「に危害がないよう俺が護るから心配ない。」 そんな自信たっぷりに言われると信じられる気がしてしまう。 しばらく考えると、私の気持ちが固まった。 「分かりました。」 「よく決心してくれました。」 私が返事をすると話はどんどん進み、これから結界のある場所に早速行く事に決まってしまった。 そして着いたのがアフリカ大陸の何処かにある森の中だった。 「ここなの?」 「結界が引かれている。ドーム状で結構大きいぞ。」 「中に入れないの?」 「ああ。この結界を解くか、壊すかしないとな。」 「でも、どうやって?」 方法なんて、沙織さん一言も言ってなかった。 「俺にも分からん。だが、必ず何か方法があるはずだ。」 結界が敷かれていると言われてもにはその結界が見えなかった。 近づけば見えるかと思い結界があると思われる所に近づいた。 「、すぐ前はもう結界の境界だぞ。」 「え、そうなの。」 見えないかと目を凝らすと、突然ガラスが陽に反射したように光ったと思ったら突然霧のような物がに迫ってきた。 途端に湧き上がる嫌悪感には悲鳴を上げた。 「きゃああああああっ!!」 「!!」 を結界から離すが、の震えは止まりそうもなかった。 「ご、ごめんミロ。びっくりしちゃって。」 「気にするな。ゆっくり呼吸をして落ち着け。」 「うん・・・。」 頷いたものの一度植えつけられた恐怖は中々消えず、体は小刻みに震えていた。顔色もいいとは見えなかった。 「。」 呼ばれてミロを見上げると、ミロの顔がすぐ近くにありは息を呑んだ。 唇に触れる暖かい感触。 キスされたのだと分かると、ミロから離れようとした。こんな時に何をするのだと、戸惑いながら。 しかし背中に回されたミロの腕がを離さないようにしっかりと固定されていた。 「ミロっ、一体なに・・・。」 離れられないなら口で抗議しようとしたら尚も触れてくる。 背中の他に頭にも手を添えられて、ミロから逃げられなかった。 最初はいきなり何をするのかと驚いたが、ミロは唇に触れるだけでそれ以上は何もしてこなかった。 感じる暖かさに次第に安心してきて体の緊張がいつの間にか消えていた。 (突飛だけど、これがミロの励まし方なのかも・・・。) ぼんやり考え、しばらくミロに身を任せてもいいとさえ思えてきた。 ゆっくりと目を閉じたの中に、一つの扉が浮かんできた。 (何だろう。でも何だか今にも開きそうな扉。) 開け。 そうが思ったら、音も無く扉が開くイメージが重なる。 そのイメージが見えてはっきりと分かった。 「ミロ、結界が開いたみたい。」 目を開けて目の前を見るとミロが笑っていた。 もうミロの両腕は私を拘束していない。 「そのようだな。結界に隙間が見える。」 を後ろに下がらせると小宇宙を高め始めた。 「なるべく後ろに下がっていろ。一気に片付ける。」 「数が多そうだけど大丈夫?」 「問題ない。」 覆っていた結界の膜が開いていくと中で圧縮されていた吹き溜まりが広い海原を求めるように飛び出そうとしている。 ミロはそれらを一つも取り逃がさないよう集中しながら手の中の小宇宙は尚も高まっていく。 ついに結界が充分な広さに開くとミロが大地を蹴って高く飛び上がった。 そして一気に小宇宙を叩きつける。 には大きな衝撃音が何度も続いて聞こえるだけで実際何が起きているのか分からずにいた。 爆風と揺れる地面にミロの安否が気になるが、不思議とミロなら大丈夫と思えてくる。 衝撃音が途絶え、変わりにミロの声が響いた。 「!結界を閉じろ!」 終わったのだと分かり、は先程の扉を思い浮かべると今度は開いた状態から閉まった扉を描いた。 さっきと同じ。結界が閉じた事が分かる。 きっと今の扉でないとダメなんだ。何故そうなのかは分からないが、これが私に与えられた力。 ミロが戻ってくる。勿論ケガなどしていないが無事な姿を確認できるとやはり嬉しい。 「良かった、無事で。」 「問題ないと言っただろう。」 そう言って笑うミロは眩しかった。 (かっこいい。) 意思に反して赤くなりそうな顔を誤魔化そうと話を続けた。 「ねえ、結界は閉じていいの?閉じていたら中に閉じ込められないと思うけど。」 「いや、これでいいんだ。この結界は引き寄せる力もあれば、一度中に入ってしまうと外へは出られないようになっている。」 「へえ〜。」 便利な構造に感心していると、ふと別の物を思い出しては小さく笑い出した。 「何だ、。」 急に笑い出したを不思議そうに見た。 「ううん。中に入ったら出られないなんて、まるでゴキブリホイホイみたいだと思ったら可笑しくて。」 「・・・ゴキブリホイホイ。」 こんな時にそんな事を思いつくとは。の考えに唖然とするミロだった。 「全く。さっきまで怖くて震えていた奴とは思えんな。」 溜め息交じりに言ってはいるが、ミロを見る限り怒っているわけではないらしい。 「ああそうだ。ごめんなさい。」 「いいさ。これから同じような事をしていかなくてはならないのだから、萎縮されるよりずっといい。」 確かにすごい怖かった。視覚からくる怖さじゃなくて、肌から感じる恐怖なんて今まで経験した事がなかったから。 それを取り払ってくれたのがミロ。 ミロのキスが私から恐怖を振り払ってくれた。 「とりあえず一つは終えたし、聖域に帰るか。」 「うん。」 歩き出したミロの背中を見つめる。 (ミロって不思議な人。) 「これをあと何回するんだろうね。」 「回数の問題ではないと思うな。この結界の中が溢れてきたらその都度その都度俺たち二人が必要になるだろう。」 この時だけ会う関係。 なんだかそれは寂しいと思うのは私だけ? 抱きしめてくれたミロの腕の感触がまだ残っていて、思い出すとドキドキする。 ミロを見ていたくて背中をじっと見つめながら後ろを歩いていた。 そんなの視線に聖闘士であるミロが気付かないはずがない。 痛いほど背中でを感じていた。 の視線にミロの方が耐えられなくなり、歩みを止めるとに向き直った。 いきなり振り向かれ、の方が驚いた。 「何、ミロ。」 「それはこちらのセリフだ。ずっと見られていて気になるんだが。何か言いたいのか?」 言葉に詰まる。言いたいんじゃなくて、見ていたいの。でもそんな事言えない。 「。」 ミロが私の左手を取った。 ミロに触れられてドキっと私の心臓が跳ね上がった。 「俺はアテナから受けた役目とは別に君に触れたいと思っている。」 思いがけないミロからの告白に何も言えず、ただ見つめ返すのみだった。 黙っている私にミロは確認するように言う。 「俺の言った意味わかるか?」 ミロの腕が伸びて、私の腰に回された。 積極的なミロに私は大いに慌て、ミロと距離を取ろうと腕を伸ばすが無駄なことだった。あっという間に距離を縮められミロの顔が至近距離にある。 「。」 「意味は分かるけど、断ったらミロはどうする?」 「そうだな。しばらくは再起不能になるな。」 言いながらも、ミロは私を抱きしめる腕を解こうとしない。 「ふ〜ん。じゃあ、しばらく経ったら復活できるから断っても問題ないね。」 徐々にミロと私の顔の距離が近づく。 「言うね。は俺のこと、どう思う?にその気がないならやめる。」 間近で低く囁かれた言葉はの気持ちを尊重しているが、拒否する事許さない魔力を持っている。 おそらくミロは、が断るなんて思っていない。自分の力や魅力を自覚しているだろう。 にはそう思える。 としても、聖闘士として男性として自身に溢れているミロに惹かれている。 「私も。」 やっと声が出せたような小さな声。でもそれが限界だった。 「ミロの事が知りたい。もっと触れたい。」 私の声が合図のようにミロが私に触れてきた。 それは私の全てを奪うような熱いキス。さっき交わしたキスとは全然違う。 たった今からミロと私は一人の人間として向き合う。 ミロと私はまだ出会ったばかり。 END ・・・お、終わりです(びくびく;)。 普段も夢小説などをサイトにアップした後はびくびくしているんですが、今回はMIZU様の書かれた小説の続きなのでいつも以上におっかなびっくりです(>□<)。 だって、ミロが夜中に部屋に来て攫って行くんですよ!続きがとっても気になって仕方がないです!後はご自由にご想像下さいとあったので、そのお言葉に甘えて調子に乗って書いてしまいました。 まあ、内容はミロとどうにかなりたい私の願望入いりまくりで唐突な箇所もありますし、前提話にはられた伏線をちゃんと踏んでいるのかが疑問ですが(ーー;)。 とにかくミロ話を書けた事に嬉しさ一杯なので目を瞑ります(汗)。 こんな自己満足なミロ夢を送りつけてしまったMIZU様に謝りつつ、我がサイトにアップする際に「前提話も一緒にどうぞ」と嬉しいお言葉にお礼を。 申し訳ありません!!そしてありがとうございます!! 夢トップ
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