真面目な本音






サガの朝は早い。教皇であるシオンよりも、他の誰よりも早く来て仕事に取り掛かるのだ。
聖域の面々は彼を、「仕事の鬼」と密かに呼んでいた。


朝。いつもの様にサガは教皇宮にある執務室に向かって行った。

執務室の扉を開けると、サガはある物に目を止めて固まった。

幾つかあるイスを横並びにしてその上に横になっている人物がいた。どうやらイスを使って即席ベッドを作ったらしい。

その人物はしっかりと毛布にくるまって静かに眠っていた。

サガは眠っているその人物に近づいて起こす為に声をかけた。

。起きなさい。」

「・・・・・。」

!」

「・・・・・。」

少し大きめの声で呼んでみるが、全く反応がない。

半ば切れたサガは、今度は怒鳴った。

「いい加減に起きないかっ!! もうじき皆が来る時間だぞっっ!!」

「っふえ!」

妙な言葉と共にはがばっと起きた。

しばし辺りを寝ぼけ眼で見渡していたが、サガの姿を認めるともうすぐで執務の時間である事が理解出来た。

ふと何かに気付きサガに向き直る。

「・・・、お早うございます。サガ。」

一応挨拶をしてみる。

「おはよう、。早く着替えて来るといい。そろそろ本当に他の者も来る時間だぞ。」

そう言われては自分の姿を確認した。
昨夜は留こおっていた仕事があったために、夜遅くなる事が予想されて仕事を終らせたあと、ここで仮眠を取れるよう、ラフな格好をしている。
白いシャツにジーパン。しかも今起きたばかりなため、髪も乱れ、勿論ノーメイクである。

寝起きという、無防備な姿をよりによってサガに見られてしまいは頬が熱くなるのを止める事ができず、それをサガに悟られないよう、

「まずい。寝過ごした。」

ぼそっと呟きながら、急いで机の上に散らばっている資料や本などを片付ける事で誤魔化そうとした。

「じゃあ、サガ!着替えたらすぐ戻ってくるね!」

言うや否や、毛布と資料類を持ち、自分の自室へ走って行った。

その姿を見送るとサガは溜め息をつく。

「年頃の女性があんな事でいいのだろうか。」



自室に着いたはふぅーと息を吐いた。

不覚だ。
あんな姿を見てサガはどう思っただろう。
だらしない女と思われただろうか。

聖域に来て、ただのお客様で過ごすのも悪いと思い、手伝える事はないか沙織に聞いたら、教皇の補佐をしてくれないかと言われた。
教皇補佐にはサガが、他に黄金聖闘士が交替で担当していたが、それでも手が足りない状態であった。
ならば日本での総帥秘書という経験から、適任でしょうと沙織の言葉で、は時間が許す限り教皇補佐をこなしていた。

教皇補佐をしている内に、サガとはよく話すようになった。サガ以外の黄金聖闘士達は入れ替わりで来るためいつも顔を合わす訳ではないが、サガは大抵執務室にいるので、自然と話す回数が多くなったのである。

サガって指長い。
伏せ目が色っぽい。
足が長い。
逞しそう。

などとサガを観察している内に、サガから目が離せなくなっていた。サガに惹かれている自分に気が付いた。

なによりが好感を持ったのは、その真面目さである。

そんなサガに認められたくて、もさっきのような失態をしてしまったのだが。

「よく言えば真面目、悪く言えば堅物のサガに、こんな乙女心は気付かないよね。」

我知らず溜め息が出てくる。

とりあえず、支度をしなくては。





「サガ、お早う。相変わらず早いな。」

「お早う、カミュ。今日はよろしく頼む。」

「うむ。ん?今まで誰か居た様だが、この小宇宙は・・か?」

「ああ、そうだ。ついさっきまで此処に居たからな。」

「・・・・・。」

「・・何故黙る。」

見るとカミュの表情が固い。サガはどうした?という感じで首を傾げる。

カミュが何か言いかけた時、突如明るい声が響いた。

「お待たせっ!あ、カミュ来たんだ。あはよう!今日も一日頑張ろうね!」

「あ、ああ。」

言うタイミングが削がれ、仕方なくイスへ座ると仕事に取り掛かった。

とサガもそれぞれ仕事を始める。

カミュもサガに負けない真面目な性格のため、真面目3人が黙々と手を進めるとかなり仕事が捗った。

しかし、カミュはとサガの会話に違和感を覚えていた。

「はい!これ確認お願いします!」

「ああ。」

「それはシオンのサイン待ちです!」

「うむ。」

「以前の分はここにまとめてあります!」

「分かった。」

の様子がおかしい。
何故あんなに張り切っているのだ?
何かを誤魔化すような仕草だ。

サガはさっきまで此処にが居たと言っていたが、ということは、は昨夜此処に泊まったという事か?

一人で?

っ!まさか!



さっきからカミュがこっちを見ては考え込むようにしている。
理由は分かってる。私の態度が変って思ってるんでしょ。それもそのはず、普段より確かにハイテンションだと思う。

それは朝、サガに見られたくない自分を見られてしまったための動揺から、必死に自分を立てなすための行動なのよ。

それに引き替えサガさんは冷静だな。

21歳の女の寝起き姿を見てなんとも思わないのかしら。




それから3日後、デスマスクからとんでもない事を聞いた。

「もう一回言って。デスマスク。」

「だからよ、おまえとサガが執務室で朝まで一緒に居たって話を聞いたから、いつの間にそういう仲になったんだ?て聞いてんだよ。」

私は何も返せずただ呆然とデスマスクを見ていた。

「場所が執務室って所が色気がねえけど、あまえららしいじゃねえか。」

ハッと我に返る。

「何なのその話っ! 嘘! デマ! でっち上げもいいとこよっ!」

デスマスクはてっきり、「やあだ、ひやかさないでよぉ。」とは照れると思っていたため、この力一杯の否定に少々驚いていた。

「それ誰に聞いたのっ。」

「ミロだ。」

「ミロは誰に聞いたのよ!」

胸ぐらを掴む勢いでデスマスクに詰め寄る。

「そこまで知るか!ってそうだな、カミュじゃねえか。あの二人仲良いしよ。」

カミュの名前が出てハッと何かに思いついた。

私が執務室で徹夜したのはこないだの一度だけ。その事を知っているのはサガと、あの朝来たカミュにサガが話したかもしれない。

まさかサガが噂通りの事を話すわけがないから、その後から話がおかしくなったに違いない。

そう結論づけたはデスマスクを置いてその場を去った。

「なんだよ。結局はデマってことかよ。」

取り残されたデスマスクは一人呟いた。





とりあえずカミュに聞きたかったが、あいにくシベリアに戻っているとの事でそれはできなかった。

悩んでても仕事は後から後から沸いてくる。自分から手伝うと言った手前、放棄する訳にはいかず、噂の出所を探すのは後回しで、今は仕事を片付ける事にした。

執務室に入ると体が固くなるのが分かった。

あの噂を聞いたすぐ後なため、正直サガには会いたくなかった。

執務室にはサガが居た。しかも一人だ。
否応無しに二人っきりになってしまうが、入ってすぐに出るのもあからさまにサガを避けてるみたいで、それは嫌だなと思い、覚悟して中に入った。

「これ片付ければいいですか。」

「ああ、頼む。今日は多いぞ。」

「みたいですね。」

私とサガは仕事に集中し始め、会話もそこで途切れた。
そんな事はいつもの事で気にならないはずだが。

今は違った。

静寂が痛い。沈黙が重過ぎる。紙の重なる音、動く音がひどく大きく聞こえる。

次第に私の手には汗が出始めてきた。

その静寂を破ったのはサガだった。

、何をそんなに緊張している?」

私の心臓が大きく跳ねた。

サガに私の変化が伝わったのだろうか。

「もしや、私との噂を聞いたか?」

思わずサガを見ると視線が会った。サガは優しい顔をしていた。

恥ずかしくてサガから目を逸らすと小さな声で話しかけた。

「サガも・・聞いたんですか・・?」

「聞いた。」

【聞いた】 

はっきりとの耳にサガの声が入ってきて、その単語が木霊していた。

迷惑? それとも・・・嬉しい?
サガはどう思った?

・・・私は嬉しかった。

「迷惑だっただろうか。」

私が今思っていた事と同じだ。

声を出す事も、顔を上げる事もできず自分の時間が止まったように動けなかった。

「私は嬉しいのだよ。」

聞こえた声がすぐ横で聞こえたため、驚いて顔を上げると、いちのまにかサガが私の横に立っていた。

視線がぶつかる。

「君の事が好きだから、嬉しい。」

サガの言葉に一気に熱が上がった。

「ああぁあの、あの、そのっ好きってっ」

自分でもどうしようもなく慌ててしまい、上手く言葉に出来ない。

サガは柔らかく笑うと、膝を立てて屈むと私に目線を合わせた。
おかげでサガと私の顔がぐっと近くなった。

「そのままの意味で受けてもらって構わない。
 君を一人の女性として見ているということだ。」

もう限界!

イスから勢い良く立ち上がると、サガと距離をとろうと後ろに下がる。

しかし、サガがの腕を掴んでそれを阻止する。

。君の気持ちを知りたい!」

真剣な目で言われ、頭がくらくらする。

も意を決したのか、サガを真っ直ぐに見た。

「サガ!それ反則です!」

「え?」

拒絶でも肯定でもない言葉にサガは呆気にとられた。

しかし構わずには捲くし立てた。

「そんなっ、そんな真剣に、好きな人に言われたらっ、嬉しくって言葉になんか出来ません!!」

サガは驚いたようにをしばらく見つめていた。今言ったの言葉の意味を理解するかのように。

「・・・本当か・・」

「本当です。」

そう言ったの目には僅かに涙が滲んでいた。潤んだ瞳は魅力を増し、サガを釘付けにした。

「私、・・サガが好きです。だから・・噂を聞いたときは驚きましたけど、すごく嬉しかったです。」

掴まれたままの腕を優しく解かれると、そのまま肩を引き寄せられた。

サガの顔が段々と近づいてくると導かれるように目を閉じた

目元に唇の感触がしたと思ったら、涙を拭ってくれた。

それから触れるだけの、優しく甘い口付けを何度もした。

やっとを解放したら、は少し困った顔をしていた。

「どうしよう。」

「何がだ?」

「私、しばらく沙織の顔が見れそうもないです。」

赤くなりながら上目遣いで見てくるに、愛おしさが溢れて来る。

「アテナにはきちんとご報告しよう。大切な、姉同然のを奪われたと、恨まれる覚悟はしておくさ。」

「びっくりされるだろうけど、恨むだんて事はないですよ。」

冗談などだろうが、真面目なサガが言うと、本気に聞こえてはくすくすと笑う。

そう、この笑顔だ。
掛け替えのないもの。守りたいもの。

この笑顔を守れるなら、どこまでもこのサガは強くなれる。



後日、沙織に話すと、案の定、とても驚いていた。

しかしすぐに私たちの事を祝福してくれた。

サガへの脅しも忘れずに。

さんがもし泣くような事にでもなったら、サガ、分かっていますね?」

一般人の私でも分かるほどに沙織は殺気を漲らせていたけど、サガは動じることなく、真剣そのものに言った。

「このサガ、全身全霊でを愛し続けます。」

サガの言葉に沙織は満足気に微笑み、私はというと、顔を真っ赤にしてサガを直視出来なかった。

サガ、恥ずかしい。



でも、私もサガと同じ。

全身全霊でサガを愛し続けます。



ずっと。





終ったーー!!長くて難産でした。
なにやら自分の恋愛観みたいなのが反映されちゃってて恥ずかしいな(///)
でもこれしきのことで恥ずかしがっててドリー夢が書けるかぁ〜っ!!と気合を入れてどんどん書きたい!
何だかんだ言って、楽しいしね。
かなり急いだんで、誤字・脱字があるやもしれませんが、その時は「あはは〜」て笑って下さい(情けないが)