刹那
「アイオリア、誕生日おめでとう!」 突然後ろから聞こえた声に、アイオリアは驚いて振り返った。 声を掛けてきたのはだった。 「・・・。」 「やだ、何そんなに驚いてるの?」 可笑しそうに笑ってはアイオリアを見上げる。 今日は8月16日。 確かにアイオリアの誕生日には違いない。 アイオリアが驚いたのは「おめでとう」を言ってくれた相手に対してだった。 彼女は、。 アテナの幼少からの友人であり、今はアテナと共に日本にいるはず。そのが何故ギリシャ・聖域にいるのか。 いや、そんな事より。 まさか彼女からそんな言葉が聞けるとは思えず、アイオリアはから目を離せず、"おめでとう"を何回も反芻していた。 「?」 アイオリアが固まったままなのに気付いては首を傾げた。 「おーい、アイオリア。おーいってば。」 がその逞しい腕をばしばし叩いて、アイオリアはようやく反応する事が出来た。 「あ、いやっ。すまん。ぼうっとしてしまった。」 「そうみたいだったけど、どうしたの?」 「何でもないんだ。」 そう言ったアイオリアの顔はどこかはにかんだように少し赤くなっている。 「ありがとう、。よく俺の誕生日を知っていたな。」 気を取り直して言う。 「沙織に教えてもらったの。だから絶対本人に言いたくてアイオリアの誕生日に合わせてギリシャに来たのよ。」 なんて事なくは言ったのかもしれないが、後半は例えどんな小さな声だったとしてもアイオリアは聞き逃さなかっただろう。 それほど重大にして、嬉しい言葉だった。 「・・・ほ、本当かっ?」 わずかに震える声は嬉しさと肯定の返事を期待しての事。 敵を前にしたらどんな相手だろうとこの様な動揺を感じた事はない。 だからできる事。 にしかできない事。 だからこそ感じる事が出来る感情。 アイオリアの心の波を知ってか知らずか、は笑顔一杯に言った。 「本当よ。スケジュール合わせるの大変だったんだから。」 「っ!!」 「でも黄金聖闘士って考えたら面白いよね。」 何か言いそうになっていたアイオリアが、続けて話すによってその勢いを遮られた。 「お、面白い?」 「うん。だって十二星座揃ってるから、毎月必ず誰かの誕生日が回って来るでしょう。それってすごい事だよ。」 「そうか?」 あまり考えたことはないが、少し興奮気味なを見てそんなにすごい事だろうかと思うアイオリアだった。 「だからね。」 「?」 「他の皆の誕生日も沙織から教えてもらったの。」 「何!」 「さっきみたいに突然の"おめでとうコール"するつもりだから、この事誰にも言わないでよ、アイオリア。」 (俺だけではなかったのか・・・。) 高ぶっていた感情が急降下するのが自分でもはっきりと分かった。 「アイオリアが最初だからこれから一年間楽しみ〜。みんなそれぞれ普段居る所がバラバラだからちょとした世界旅行気分よね。そう思わない?アイオリア!」 うきうきしながらこれからの計画を話すとは対照的に、アイオリアの表情は暗い。 「そう、だな。」 返事もこれが精一杯だった。 アイオリアの暗さも気付かず、はなおも続ける。 「でもね。アイオリアに一番におめでとうって言った理由もちゃんとあるんだよ。」 「何っ!」 光速よろしくとばかりにアイオリアが反応した。 「アイオリア、さっきから驚いてばかりだね。」 まあ、いいけど。と。 「私も誕生日が8月だから、何だか同じ8月のアイオリアは他とは違う親しみを持ってるんだよね。」 笑いながら言うに、アイオリアは我知らず握り拳を作っていた。 「俺ばかり言われては申し訳ないな。」 「え、そんな、気に・・・・・。」 "気にしなくていいよ" そう言おうとしたは驚きのあまり言葉が続かなかった。 いつの間にかアイオリアの顔が目前に迫っていたから。 (キスされるっ?!!) 咄嗟に目をつぶって動けなくなってしまっただったが、アイオリアが触れたのは唇ではなく頬だった。 それも挨拶に交わすような短く軽いものではなく、アイオリアの唇が意思を持って留まっているように長い時間頬に触れられる感触。 頬に感じる熱さはとても"おめでとう返し"には思えず、それ以上の情が伝わってくる。 呆然と金縛りにあったようにアイオリアに身を任せるままになっていると、頬からアイオリアが離れるのを感じてようやく金縛りから解かれた。 「アっ・・・アイオリア〜っ!!」 アイオリアの突然の行動に思わず声をあげたが、そこには抗議や非難は含まれていない。 「も誕生日おめでとう。」 の大声に怯むことなく、アイオリアが笑顔で返した。 恥ずかしさで赤くなっていたはそのアイオリアの笑顔に見蕩れてしまった。 (・・・アイオリアってこんなにカッコ良かったけ!?) 初めて紹介された日から他の黄金聖闘士と同じく、"沙織を護ってくれる聖闘士"としか認識していなかったアイオリアがこんな事をするとは思えず、驚きはしたが不思議と嫌な感じはしなかった。 逆に煩いくらいに胸がドキドキいっている。 「あのね!そんな事言っても誤魔化されないわよ。もう〜、一体何の冗談なの。」 まるで自分のドキドキを悟られないようにするかのようにはわざと笑ってその場をやり過ごそうとした。 「冗談ではない。したいと思ったからしたんだ。」 真っ直ぐにを見て真顔で言うアイオリア。 笑った顔のままの動きがピタっと止まる。 (ただアイオリアにおめでとうと言いに来ただけなのに、どうしてこんな色恋沙汰の話になってるんだろう・・・。それも硬派なアイオリア相手に。) そのまま動かなくなってしまったを見て、アイオリアは早まった事をしてしまったかと心配になった。 「?」 「え、はっはい!!」 呼ばれてアイオリアを見れば自分を心配そうに見つめている。 アイオリアの顔をこんな近くでしっかりと見た事はなかったが、改めて見ると男性らしく凛々しい顔立ちに気が付いた。 (やっぱり、カッコ良い。) 急にアイオリアから"異性"を感じて、の顔に朱がさっと広がっていった。 「ええと、アイオリア。」 「ん?」 「さっきみたいな事は人前ではしないでね。恥ずかしいから。」 笑って顔を少し赤くしながら、この場が気まずくならないように言う様子に、はっきりとした拒絶は見受けられない。 (嫌われていないという事か。) 自分の咄嗟の行動にが警戒心を抱くかとアイオリアは危惧したがそれは無さそうだ。 照れ隠しに笑って言ってくれたに微笑むと、アイオリアもが気まずくならない様、さっきの真面目な雰囲気を隠して何事もなかったように言った。 への確かな思いを込めながら。 「すまん、今の俺はどうかしていた。忘れてもらっていいから。」 「ん、うん。」 いつもの、誰にでも優しいアイオリアだ、と少しほっとする。 まるで恋人にするような頬へのキスの余韻を感じながら、 (皆におめでとうって言うの、止めようかな。) なんて事を考えながら、はアイオリアから目を離せずにいた。 アイオリアも、今まで気にかけず通り過ぎていた誕生日に嬉しい思い出を刻んでくれたを愛おしそうに見つめていた。 アイオリア、8月16日誕生日おめでとう! 天架様、六貴様。参加させていただきありがとうございます! 実は"初アイオリア夢"だったりします(^-^;)私も8月生まれなものでこのような話になりましたが、まとまってますでしょうか・・・(慌っ慌っ) 毎月誕生日が回ってくる、とありますが実際には同じ月にかぶってる人達もいますがその辺は、まあ、気にせずにお願いします(書いてる途中に気付いた奴)。 由宇:回転カフェ---8月9日 |