Perfect Holiday






今日は11月8日、俺の誕生日。

聖闘士にとって世間一般にいう休日というものはない。

しかし、俺は今日、ある一枚の紙を手に持ちながら、突然"休み"というものを貰った。




昨日教皇シオンに呼ばれたかと思うと、



「明日11月8日、お前は聖域から出て休め。」

と言われた。いや、命令だったかもしれない。

俺は文字通り鳩が鉄砲を食らったような顔をしたと自覚した。

「は?」

失礼ながらも教皇に向かってそんな言葉が出てしまった。

「教皇、それは一体どういう事です?」

困惑気味に訊ねるミロに、シオンは楽しそうに答えた。

「アテナからのささやかな誕生日プレゼントだ。先月はライブラの童虎、来月はサジタリウスのアイオロスだ。皆それぞれアテナから休日を賜る。今月はミロの番というわけだ。」



成る程。

ミロが納得した時、シオンが再び口を開いた。

「そして、これが当日のタイムスケジュールだ。」

シオンが一枚の紙を指し示しながら言った。

「は?」

二度目の失言。

だがミロの失言には気にも留めず、シオンは話を進めていった。

「この通りに行動すれば実に有意義な休日を送れるだろう。アテナからのプレゼントだ、脱線は許さんぞ。」

最後の言葉に威厳を骨の髄まで感じ、ミロはその場に立ちつくしてしまった。

ミロの手に先程の紙を飛ばすと。

「私からは以上だ。退がってよい。」

それが合図かのように、ミロの緊張がすうと取れていった。



ミロは一礼すると、教皇の間から退室するためシオンに背を向けるが、ミロの背を見ながらシオンが不適に笑った事に、ミロは気付く事はなかた。




11月8日。

ミロは言われた通り、スケジュール表に載っている出発地に来ていた。

昨夜一晩中、紙を眺めながら考えていたが、どうも腑に落ちない。

休みをくれるなら、正真正銘の自由な休みをくれればいいものを。

「良い休日を!」と、ポップな字体が踊っていて、聖域の最高指導者である教皇から直接渡されたとは到底思えないタイムスケジュール表に、益々ミロに警戒心を起こさせていた。


(これは何かのギャグか・・・。)


溜め息をつくが、「脱線は許さん」と言われた手前、一日この通りに行動する事に決めた。



ここで、今日を共にする人物と落ち合う事になっているのだが。

どんな人物が来るのか俺には一切知らされていないため、とにかく待つ事にした。



少し待った所で、突然俺は見知った気配を感じ辺りに視線を配った。

この気配は・・・。

思い当たる人物を浮かべながら、俺は自分が動揺しているのがはっきりと分かった。



・・・。」

抑揚のない声で小さく呟かれた。



人から人の波の間をぶつからないよう真っ直ぐ俺の所へ来たのは間違いなくだった。


が俺の前に立った時、もう一度""、と呟いた。


俺は内心大いに頭を抱えてしまった。


とは数回しか会ったことがない。聖戦後、アテナから紹介されたが、話をしたのもその数回の内の僅か。

あまり接触のないだったが、俺はが苦手だった。

その理由は分からなくもないが、それを認めるには俺との間には溝がありすぎる。

聖闘士と一般人、果たして成立するのか。

それよりも俺にそんな事が許されているのか。

に会ってから今まで考えもしなかった事を考えるようになった。

「沙織とシオン教皇から言われたんだけど、今日一日ミロの休みに付き合ってくれって。きっと休みをやっても何もせずに終わってしまうだろうからって。」

よろしく、と笑って言う、に胸の内で溜め息をついた。

なぜよりによってが来たのか。

俺の心が乱れるから、そんな自分が嫌いだから、実の所とはあまり会いたくないと思っていた。



しかし、来てしまったを追い返す訳にもいかず、俺は腹を決めてとスケジュールに沿って過ごすことにした。

「ミロ、どうしたの?顔が恐くなってる。」

の指摘に俺は、何でもない、としか言えず苦笑するしかなかった。



まったく。
これなら、ポセイドン、ハーデスを接待しろと言われた方がまだましだ。



「これからどうしようか。ミロ。」

「ああ、スケジュール表だと"ショッピング"とある。」

「スケジュール表?!!何それ。」

が目を見開いて聞いてきた。

当然の反応だな。

「シオン教皇から渡されたものだ。今日はこの通りに動けと、脱線はゆるさんと念を押された。」

の目がまた大きく開かれた。

「それって、休みじゃないみたい。」

「俺もそう思うんだが、教皇の言葉には逆らえないから仕方ないさ。」

「見てもいい?」

「いいぞ。」

俺の横からスケジュール表をサラが覗くと、いきなり、あっと声をあげた。

「どうしたっ。」

「大声出してごめんなさい。だって、このスケジュール表を作ったの沙織だって分かったら驚いちゃって。」

「何!」

アテナという単語に俺は過敏に反応した。今日のタイムスケジュールにシオン教皇だけでなく、アテナも関わっているとは思わなかった。てっきり教皇の質の悪い思いつきだとばかり思っていたが。

これでは本当にスケジュール通りにいかなければを通してアテナ、教皇共に筒抜けになってしまう。

「この間、これを作っている時に沙織に声掛けたら、あから様に隠すからなんだろうとは思ったけど。でもその時ちょっと見えちゃったんだよね。」

俺があまりにも驚いたためか、が説明してくれた。

「そっか、今日のやつだったんだ。」


こうやってと話している時でさえ、の表情や仕草、声に目がいって落ち着かない。

こうなる自分が嫌だったから、とはあまり関りたくない、苦手だ、と思うのだが。


「じゃあ行くか、。」

「うん。」


今に始まったことでもない事に気を散らせる必要はない。

気を取り直してスケジュールに沿って動く事にした。


最初に書かれているのは「ショッピング」とあり、行く店まで指定されている。

他にも映画や食事と、行く場所全部に指定が付いていた。

昨夜スケジュールを見た時はまさか女性が、が来るとは思わなかったから気にしなかったが。

何だかデートをしている気がしてくる。



・・・・・。

・・・・・・・・。

デートっ!!



隣にいるを見ながら、俺は嵌められているのかっ、と思う。



は何と言われてここに来たのか。

気になる。


。」

「ん?」

「アテナや教皇には今日の事について何と言われた?」

「え?何って、さっき言った通りだけど。ミロ一人だと無駄に終わるから一日付きやってくれって。」

「それだけか?」

「それだけ。」

なぜそんな確認するの?といった感じでが俺を見るが、その場はあいまいに濁した。



どうやらアテナやシオン教皇は俺がを意識している事をしっているらしい。

今日はと過ごせるようにと、これがプレゼントといったところだろうか。

しかし、俺はとどうにかなりたいとは、今のところ考えていない。

にしたって俺の事をどう思っているのか。






いつの間にか時間は夕方。

日もだいぶ傾いて、オレンジ色に染まり始めていた。

最初はと二人で気が重かったが、話している内にそんな事は気にならなくなっていた。

そういえば。

とこんなに長い時間一緒に居たこともなければ、こんなに多く話したこともない。

これはあれか。

意識し過ぎという事か。


俺たちはある書店に入っていった。

「ここも指定されているの?」

「ああ、そうだ。しかもセリフ付きだぞ。」

悪戯っぽくにやりとミロが笑う。

「セリフ・・・・・、沙織はミロに何をさせようって気なんだろう。」

「さあな。ま、これも任務と思えば余計な疑問などないな。普段の任務に比べれば数段気が楽な分いいさ。」

「ふ〜ん、目的のない変な任務ね。」



今日の一日を振り返っては首を傾げた。

一緒に食事をして、お店に入って何かを買うでもなく他愛のない話をしながらお店の商品を見る。

聖闘士の任務にしては逸脱しすぎているように思える。

沙織からミロにちゃんと休日らしい休日を、と言われたがまさか既にスケジュールが決められているとは思わなかった。

ミロもそれには驚いていたから本当にシオンや沙織に言われて、もしくは命令されてここにいるんだと思う。



でも、今日ミロと過ごすのは別に私じゃなくてもいいと思うけど。

数回しか会ったことないのに。

他の、仲の良いカミュとならもっとミロ自身も楽しめるはず。


まるで私とミロ、デートしてるみたい。


途中から薄々とそんな気がして、は側にいるミロを急に意識し始めてしまっていた。

そうなると、ただでさえ目を引く外見をしているミロがこの上なくカッコ良く見えてくるから、声やちょっとした拍子にミロに触れただけでも胸がどきどきとうるさい。


(ミロには気付かれないようにしないと・・・。)



店内に入るとすぐレジにいる店員に声をかけた。

「本を予約したんだが来ているだろうか。」

「お名前と本のタイトルを教えて下さい。」

店員とミロのやり取りには一生懸命笑いを堪えていた。

ミロの言葉に全部台本があると思うとおかしな光景だった。

無事目的の本を手にすると、次はどこへ行くのかが楽しそうに聞いて来た。

「随分楽しそうだな。」

「だって〜、こんな風に決められて行動するのが楽しいなんて思わなかったから。何かオリエンテーリングやスタンプラリーのノリみたいだなってね。」

「オリエンテーリング?」

「あ、んとね。地図と方位磁石を使って目的の場所を目指すっていうやつなんだけど、初めて聞いた?」

「初めて聞いた。ふ〜ん、日本にはそういうものがあるのか。」

たぶん日本だけじゃないと思うよ。

と、こっそり思うだった。


次に向かった場所は小高い丘になっている、夜景が見えると割りと有名な場所だった。

「結構夜景がよく見えるのね。」

はここは初めてか。地元だと割りと有名な場所だ。ここの来るカップルも多いのだぞ。」


"カップル"


自分で言っておいて、とここにいる今の状況にどきりとした。

も。

ミロに言われて改めてどきっとした。

二人、なかなか次の言葉が出ず、沈黙が暫く続いたがミロからその沈黙が破られた。

「立っていてもなんだろう。座ろう、。」

「ううん。私は立っていても大丈夫。」

「いや、これから朗読の時間だから座った方がいいぞ。」

「・・・・・は?・・朗読?」

さっきまでの気まずい雰囲気はどこへやら。一気にその場が和んだ。

「仕方あるまい。これも予定に載っている事なんだから。」

が隣に座るのを確認すると、さっき本屋で受け取った本を袋から取り出す。

「それを読むの?」

「ああ。」

実は本だけでなく、ページ指定もあった。

そのページを開くと、淡々と文字を読んでいった。




はじめはなかなか君の良さに気付かなかった。

違う人に夢中になっていたから。

でも。

昔のアルバムを見ていたら、君だけが光って見えた。

それは突然気付いた事。

僕の中で君の存在は次第に大きくなっていった。




「恋愛物だね。」

ポツリとが言う。

は耳に馴染む低いミロの声に聞き入っている。


何となくずっと聞いていたいと思わせる声だな、なんて思いながら。



もう、胸の中で想っているだけじゃ満足出来ない。

君は知らないかもしれないが、君を想っている奴は意外に多くいる。


黙っていられない。




ここまで読んで、ミロは眉をしかめた。


嫌な予感がする。


嫌な予感がして、先の文章を盗み見てみると。


固まった。

そして確信した。

教皇とアテナはこれを言わせるために、こんな「朗読」なんて笑える指定をしてきたのだ。

俺の口元には微かに笑みが零れた。
ここまでセッティングされては実行しなくては、お二人の(余計な)お心遣いに水をさしてしまう。

有り難く受け取ろうではないか。



僕はもう自分の心に蓋をしない。


僕の声がその他大勢の中の一つでも、いい。




ミロがに顔を移した。


と目が合うと、ん?という顔をして俺を見ている。


「今こそ言おう。」


に向かって。


「好きだ。」




の目をしっかり見つめ、ミロが言った。


しかし、はミロが今言ったことが理解出来ないでいた。


「は?」


ミロは本の文章を読んでいたはず。

なのに何故私の方を見て、いきなり「好きだ」なんていうの?

そんな力のこもった目で。




「もう一度言う。好きだ。」


「・・・え・・っと、何?」


二度言われて、ミロが何を言おうとしているのかは。

分かる。

私だってそんなに鈍いわけじゃない。


でも、いきなり言われて何て返せば良いか分からない。


「あの、ミロ・・・。」


が困惑しているのは手に取るように伝わって来る。

しかし、言わずにいる事など出来なかった。


「実はな。」

本に視線を戻すと、本を閉じた。

「・・う、うん。」

「初めてアテナから君を紹介された時からずっと、俺は君の事が苦手だったんだ。」

「え!?苦手??」

本当にびっくりしているらしいが可愛らしくて、ミロは小さく噴出した。

「何ていうか、一目見た時に話しかけにくい、と思ってしまったらしい。可笑しいだろう?一瞬見ただけでそう思った。」

に向き直すと静かに告げた。



「つまり、一目惚れというやつだ。」



はミロから逸らすことが出来ないまま、ミロを見ている。

突然、にっとミロが笑ったかと思うと、ベンチから立ち上がった。


「教皇とアテナは俺の気持ちに気付いていたんだな。だから、今日と過ごせるように配慮して下さった。最初はかなり怪しんだが、今となってはと一緒にいられて楽しい誕生日だったぞ。」

そこでは目を見張った。

「ミロ、今日誕生日なの!?」

「やはりは知らなかったのか。と過ごす、これは俺への誕生日プレゼントらしい。」

まだの困っているような表情は変わらない。

「深刻に受け止めなくていいぞ。俺はただ、には俺の気持ちを知っていてもらいたいだけで、に俺の気持ちを押し付けたりはしない。」

「あ、いや・・。・・・・ミロ。」

「何だ。」

「私なんかでいいの?何かが際立っている訳でもないのに、もっと素敵な人がいるんじゃないかって、思うけど。」

「あまり自分を卑下するような事はいうなよ。俺にとってはが他の誰よりも魅力を感じるだけだろう。」

「・・・ミロ、言ってて恥ずかしくない?」

「全然。何だ、顔が赤いぞ。」

「誰のせいだと思ってるのっ!」

の大声にミロは声を出して笑っている。

「そうそう。好きだと言われたからって変に緊張する必要なんてないから、普通にしていてくれた方が俺としても嬉しい。」



はちょっと考え込むように俯くとごく小さな小さな声を出した。


「私、ミロの事は嫌いじゃない。だから、友達からでいいかな。」

嫌いなんて事ない。ほとんど話す機会がなかったけど、今日一緒にいてミロのカッコ良さに気付いた。


言ったそばからの顔が赤くなっていくのがミロにははっきり見る事が出来た。

、それって。」

「・・・聞こえた?」

「聞こえた。も俺なんかでいいのか?」

「・・大歓迎。」

ミロがの前に片手を差し出した。

「ミロ?」

「次、行こうか。」

はにっこり笑うと、ミロの手に自分の手を重ねた。

「予定では何処なの。」

「予定はない。このスケジュール表に書いてあるのは俺が本を読む所までだ。後は俺達の自由だ。」

の手を引き寄せた。

「じゃあ何処行くの。」

「とりあえず。」

「とりあえず?」

「メシを食いに行こう。」



一瞬呆気に取られただったが、ミロの言い回しにほっと安心しているのに気付いた。

ミロなりの気遣いなんだろうと思う。

さり気ない優しさに、の頬が赤くなっていく。

また一つ、ミロの優しさを知ったは密かにそう遠くない未来の自分が予測出来た。


もしかして私、すっごくミロを好きになるかも。


繋いだ手の温もりから、どんどんの中にミロが入って来るような気がする。

でも不快じゃない。


今日がミロの誕生日と知ってたら何か用意出来たのに。

プレゼントの代わりにご飯を奢る事と。

"おめでとう"って言う事。

この二つを決めて、ミロの手を握っている手に力を籠めたのだった。



END




ギッッリギリの投稿なためおかしな所があるかもしれませんが、見つけたらこっそり直しておきます!(笑・・・どころか失笑の域;)

毎日新作を読める幸せと、改めて瑞さまのミロに対する深い愛を感じる事が出来る一ヵ月でした。お疲れ様でした。

H16年11月21日    由宇


あとがき  11/22

蠍誕に二度目の投稿夢です。ミロにちなんだお題を募集していたので、それに出したタイトルに挑戦してみました。ミロの誕生日をお祝いする企画のタイトル募集だったので誕生日に関連するタイトルを、と考えて「Perfect Holiday」になりました。「完璧な休日」とか「完全な休み」とかそういうニュアンス(曖昧)です。これの何処が誕生日関連だ??実はですね。昔から私は、誕生日は休日というイメージを持っているので、「休み」という単語がどうしても離れなくて。「休み」そのままでは味気がないので英語にして、「Perfect」はタイトルを考えていたその時の状況で(どんな状況・・・)。
このタイトルで浮かんだ内容が、「予定を他人に決められて過ごすのって完璧な一日っぽい。完璧だよね(自己暗示)。」←これだけ。
「銀時計」と同じく話を繋げるためまた悩む悩む。それに、ただ予定通りに過ごすだけではラブラブには成り得ない( ̄□ ̄)!、という事に気付き結構な日数で考えた挙句、あんな感じに落ち着きました。ラブラブでしょうかねぇ。

←蠍誕は終了しましたが、削除せずしばらくそのままに置いておくそうなのでリンクは貼っておきます。