for you





もうすぐミロの誕生日か・・・。



秋が深まる日本の空を見上げながらそんな事を思う。





一緒に過ごして、お祝いしたいけど。

ミロはどう思ってるんだろう。

聖闘士って一般的な恋人達のイベントに疎そうな気がするんだけど。




蠍座のミロの誕生日を沙織からそれとなく聞きだしてから、の中ではミロと誕生日を一緒にお祝いしたいという計画はあった。

しかし、11月8日が目前の今になっても、はミロに誕生日の事を切り出せないでいた。

「でも今はギリシャと日本に分かれてるからな。話そうにも話せないや。」

はあ〜、と溜め息が出る。

会えないのは仕方ないとして、プレゼントだけは渡したいと思うは、う〜ん、と考え込む。

どんなに考えてもやはり、思い浮かぶのはさっきから同じ事ばかり。



ミロとの共通点。

「ここは沙織に頼んでみようかな。」








さん!今晩は。」

仕事が終わって帰宅した後、さっそく沙織の携帯に電話した。

いつも通りの明るい沙織の声にこれからお願いする事に対して少し緊張してくる。

ミロと私の関係は当然沙織も知っている事だから、何となく恥ずかしい。

「今晩は、沙織。あの、ちょっといいかな。」

年下の沙織に言うのは確かに恥ずかしいけど、ミロにはどうしてもプレゼントを渡したいし、こういう事は勢いよ。勢い!!

「特に今は何をしている、というのもありませんので大丈夫です。何でしょう?」

「あのね、もうすぐ11月8日でしょう。」

「?・・・そうですね。」

「それで、ミロに誕生日プレゼントを渡したいんだけど・・・。」

「分かりましたっ!!」

うわっ。沙織の大声に咄嗟に耳元から携帯を離した。

「ちょっと、いきなり大声出さないで。」

「あ、すみません。11月8日のミロの誕生日に、ミロとお会いしたいという事ですね!」

「え!・・・いや、そこまでは。」

「そうですよね。両思いのお二人ですから、誕生日は一緒に過ごしたいと思うのは当然な事ですよね。」

「んー、そうだけど。ミロが忙しいのなら無理な事は言わないから、せめてプレゼントだけでも渡したいなと。」

「あら。でもプレゼントは直接お渡しするのでしょう?」

「いや、無理なら誰かに代わりに渡して貰おうと思ってたんだけど。」

「代わりって、他の黄金聖闘士ですか?」

「うん。その方が確実に渡して貰えそうだし。」

「・・・さん。」

突然の沙織のトーンダウンに一瞬びくっとなった。

「な、何?」

「好きな女性からのプレゼントが男から貰うというのは嬉しさも半減というものです!やはりここはさんが直接渡すべきです!それも当日に!」

「それこそ無理よ。11月8日は平日で仕事があるじゃない。」

「大丈夫ですよ。さすがにお仕事の方は休めませんが、仕事が終った後、ムウにテレポートで聖域に飛んで行くことが出来ますから。」



ムウ?
あ、十二宮の最初の人ね。



初めて聖域に行った時の事を思い出し、ムウという人物が浮かんできた。

でも。

「何か悪いな。それって、私なんかの私用でムウには日本に来てもらうんでしょう。」

さん。遠慮なんかしていたら幸せを掴む事は出来ませんよ。」


(うぅ、13歳の沙織に説得されてる。)


でも、沙織のいう事は当たってる。唯でさえ、ミロとはあまり会えないんだから。

ムウには申し訳ないけど、沙織の言葉に甘えちゃおう。


「んっ分かった!よろしくお願い。」

「いえいえ、お安い御用ですわ。それでさん・・。」

「ん?」

「ミロに渡すプレゼントはもう用意してあるのですか?」

沙織の声がどことなく上擦っているように聞こえる。

「まあ、一応。」

「あら、そうなんですか。」

私の返答に今度はテンションが下がったような。

「どうかしたの?沙織。」

「いえ、もしプレゼントがまだ決まっていなかったら一つ案があったもので。おほほほ〜〜。」

最後の、沙織の妙な笑い方に私は眉を顰めた。

「案ってどういう案?」

「・・・ゴホン」

「え?」

「・・アレです。よく言いますでしょう、首にリボンを巻いて私をプレゼントって・・・。」

「・・・・・」

「・・・・・」


どこからそんな事聞いたのよ、沙織っ!!

携帯片手に私は絶句していた。

言った本人も失言だったようで、携帯の向こうから慌てている沙織の意味不明な声や物音が忙しなく聞えている。

「で、で、で、では、8日にムウに来て貰うので良い誕生日をミロと過ごしてくださいね。それではお休みなさい!!!」

ブチっ

一方的に切った沙織はおそらく顔を真っ赤にしているに違いない。

今の私と同じ位に。

「まったく沙織ってば。」



首にリボンを巻いて私をプレゼント


できるかあぁ〜!そんな事っ!!



は想像した光景にじたばたと手足を動かして込み上げる恥ずかしさと闘っていた。





「お久しぶりです、。」

「お久しぶりです、ムウ。ごめんなさい。わざわざ日本に来てもらって。」

「アテナから理由は聞いています。そういう事でしたらいくらでも協力しますよ。」


"理由"


その理由を聞いて目の前のムウはどう思ったのだろう。

私の頬は私の意志とは関係なく僅かに色付いていった。

ムウは変わらず優しい笑みのまま、私に手を差し出した。

「さあ、行きますよ。」

「・・・お願いします。」

おずおずとムウの手を取ると、そのまま引き寄せられ聖域に飛んだ。

日本は夜だが、ギリシャはまだ日が高い。でも天気はあまり良くないようだ、太陽が隠れている。


「ありがとう、ムウ。」

ムウはさっきと同じ微かに微笑んだまま頷く。

「さあ、ミロはあちらにいます。」

「うん!」

言われた方へ駆け出そうとして、私は止まった。



「・・・。」

だって

私の視線の向こうには



ミロがいた。



「・・・。」

ミロがびっくりしてる。

驚きながらも私に向かう足の速さは同じ。

最初、駆け出そうとした私の進む速さもミロに合わせるように、同じ歩みに。

「ミロ。」


お互い、吸い寄せられるように歩み寄るミロとを背に、ムウは黙ってその場を後にした。



「どうしてここに?」

「へへ、驚いた?」

会えた喜びで私は笑顔一杯だけど、ミロはまだ驚いている。

「さて、今日は何の日でしょう。」

小さな四角い包みをミロに見せびらかすようにミロの目の前に置いた。

それでミロは気がついたみたい。私がここに来た理由とその包みの意味が。



ミロの表情が驚きからまた微妙に変わる。

この変化が自分によって引き起こされたと思うと嬉しくて仕方がない。

ミロの全てに過敏に反応する私だけど、私も少しはミロに影響を与える事ができてるって事かな?


「そうか、俺の誕生日か。」

独り言のように呟くミロが何だか幼く感じて、ミロを前にするといつも自然と湧き上がる緊張が今は影を潜めて、私の方からミロとの距離を縮めていった。

私とミロの顔がぐっと近くなった。

「そうだよ。これ、誕生日プレゼントね。」

「今見てもいいか?」

「気に入ってもらえるか心配だけど、どうぞ。」


ミロが器用に包装から中身を取り出すと。

シンプルなシルバーリングに細かいチェーンが通してある、ペンダントだった。

「何をあげていいのか分からなくて随分迷ったけど。これペアリングになってるの。」


は自分の指にある指輪をミロに見せた。

好きな人と同じ物を持ってるって、好きな人と繋がっているみたいで。

それにアクセサリーならいつも身に付けていられるし。

ミロの指輪にチェーンを通したのは、ペンダントにした方が訓練などに邪魔にならないと思っての事。

「お揃いの指輪とは、まるでと繋がっているようだ。」

「本当に?本当にそう思ってくれる?」

「ああ、ありがとう。」

「待って、ミロ。私に付けさせて。」

さっそくチェーンを首に掛けようとしているミロの後ろに回りこむと、がそれを引き継いだ。

「ちょっと屈んでね。」

ミロの長い髪を除けながらチェーンを付け終わると、

「渡せて良かった。」

目的を達成できた事に、満足気にほお〜と息をつく。

「なんだその全てを終えたような顔は。」

ミロが苦笑しながら指摘した。

「だって、本当にそうなんだからしょうがないよ。もしミロに会えなかったら黄金聖闘士の誰かに渡すのを頼もうとも考えてたんだから、自分で渡せて満足です。」

にこにこしているとは反対にミロの顔が歪んだ。

「あいつ等にか?あいつ等に貰っていたら今ほどの感激は得られなかったぞ、。」

「え、やっぱりそうなの?」

「そうだ。」



大きく頷くミロを見て、ちょっと焦ってしまった。


とにかくプレゼントを渡したい一心だったから、渡し方とかミロの気持ちとかそういう事に考えが及ばなかった。

(そ、そうか・・・。沙織の言う事聞いて正解だったよ。)


でも、感激だって。

喜んでもらえて良かった。






ポツ


「あれ?」

「ん?」

二人同時に突然の冷たい感触に空を仰ぐ。

ここに来た時よりかなり厚い雲が空を覆っていた。


ポツ、ポツ


「え、雨?」

「どうやらそうらしい。」


ポツ、ポツ、ポツ


次と次と振ってくる雫が冷たくて気持ちいい、なんて呑気な事を言ってられたのも僅かな時間だけ。

あっという間に大雨になってしまった。

、こっちだ。」

「う、うん。」

ミロに手を引かれ、雨が止むまでの間、大木の根元で待つことになった。覆い茂る葉が屋根代わりになってくれている。

葉っぱに雨が当たる音がやけに大きく聞こえる。

「少し濡れたな。」

ミロが私の濡れた頭を撫でるように触れている。

「うん。でも本当に少しだから平気。」

実は今、私の心臓はかなりどきどき鳴っていた。

そのせいか体が熱い。その熱のせいで少し濡れていた顔や髪の乾きが早い気がする。

雨のために視界がぱっとしなくて、雨の音以外の音が聞こえてこない。

外のはずなのに、ミロと狭い部屋に閉じ込められた気分だ。

ミロが尚も私の髪を撫でている事に益々胸が締め付けられるようだった。



「ミ、ミロ。全然濡れてないから平気。」

ずっとそうしていられるのが恥ずかしくて、ミロの手をどけようと、ミロの手に触れる。


しかし、逆にミロに手を取られた。

「久しぶりに会えたんだ。構わないだろう。」

今度は私の顔にミロの手が伸びてきて、両手で顔を包むようにされてしまったので自然と顔がミロの方に向かされる形になる。

すぐ近くにあるミロの顔とバッチリ目が合った。

「ミロっ、離して!」

「ダメだ。」

「だ、誰かに見られたら・・・。」

「雨が姿を隠してくれる。気にするな、。」


気にするな、って言われても。

私が気になるのは、私の頬に触れているミロの手なんだけど。

。」

ミロはちょっと困っているような、にお願いを頼んでいるような表情をしている。

「あまり頻繁に会えないのをから会いに来てくれたんだ。をもっと感じたいと思うのは当然な事だろう?」

真面目に言っているミロの顔に変化はないが、それを聞いたは瞬きも忘れてじっとミロを見つめた。

ミロの今の言ったことは確かに恥ずかしくて、近くにもし人が居ようものなら全力でミロの手の中から逃げていたかもしれない。



でも今はミロと二人きり。



ミロの言葉にどきどきが治まらないけど、ストレートな表現がすっと心に染み渡って、とても幸せになる。


私もミロと同じ。

もっとミロを感じたい。


そんな感情が次から次へと溢れてきて。


私はミロが好きっていう事を、今更のように自覚した。

そうしたら、不思議と胸が静かになってきた。

さっきまでミロの手を介して胸の音が伝わってしまうのではないかと思うほど騒がしかったのに。

ミロを全部独り占めしたい。

そう思ったらいつの間にか私の両手は、ミロの腕に触れていた。

ミロはまだ私の頬に触れたまま。

ゆっくりミロの顔が近づいてきて、私も引き寄せられるようにそれに答えた。

ミロとは数えるほどのキスしかしていないけど、自分からミロを求めたキスは初めてだった。




プレゼントをミロに渡したらそれで帰るつもりだったけど。

ミロの手が、唇が。

簡単に返してくれそうもない。



never end





11月8日を過ぎてしまいましたが、ミロの誕生日を皆様とお祝いしたく参加させて頂きました。
ミロとペアリング・・・、そんな繋がりをミロと持ってみたいという思いつきから。当サイトで連載中のヒロイン設定を使っての話なのでほんの少しだけ本編とリンクする所が出てきてますが、本編を知らなくても全然問題ないと思います。
何故こんなにミロが大好きなのか謎なところですが、本当に大好きです!!生まれてきてありがとう!そして誕生日おめでとう!!

H16年11月12日    由宇



後書き 11/28

後半恥ずかしい///;;。あーでも、良いですよね。こういうミロ(←どんなミロ?)。
私がミロに求める願望第1位は攻められる事!!これが基本です( ̄▽ ̄)!
・・・まったくよぅ、って呆れられそうですが。良いんです、頭の中がそんなミロで一杯の時、私は世捨て人になって楽しくマイワールドに浸っていますから。
では、皆様が引きそうな発言をした所で、自分的に気になっている事を。タイトルの「for you」なんですけど。for you・・・・あなたのために、という意味ですが、何かこのタイトルって恋愛話や恋人設定の話には無理なく使える単語だと思うので、深い意味はなく決めました(安直)。
昔からダメなんですよ、題を考えるのが。前によく描いていたマンガのタイトルも最後の最後に考えていましたね( ̄ー ̄)。どうして皆さん、あんなにスマートで素敵な、内容を想像したくなるようなタイトルが付けられるでしょうか。
まあ、それは置いておいて、積極的なミロを書けて、尚且つ沙織さんも書けたのでこの話も結構好きなのでした〜。