ライトな二人ー36ー 「そうじゃない、。俺はそんな事を言っているのではない。」 今にも泣きそうになるに静かに語りかける。 「アテナと君は仲が良い。あの関係は俺たちでは築くことはできない信頼関係だと思ったのさ。」 だから、と続けて。 「そのままのでアテナの傍にいてくれ。」 「・・・・・。それってミロだけじゃなくて他の皆も同じように思ってくれてるの?」 「全員の了解がないと今のままの関係が続けられないか?」 いきなり言われ、突き放されたようだった。 の瞳が今度は信じられないものを見るように大きく開く。 ミロは別にを咎めるような言い方はしていない。いないが、言われた内容は冷水を掛けられたようにの温度を下げる。 押し黙ったを見て、言い過ぎたか、とミロも後悔の念が過ぎる。 口に出してしまった言葉は取り消せないが、には変わらないでいて欲しいと思い、言ったのだ。 「すまない。不安に思っている君を追い詰めるような事を言って。」 「・・・・。」 「周りの事など気にするなと言いたかっただけなんだ。」 「・・・うん、そうだよね。」 少し笑ったに、ミロも安心したように笑顔が浮かんだ。 「ミロの言う通りね。周りの声に自分の態度を変えていたら、私、酷い人間だよね。はっきり言ってくれてありがとう。」 今度こそ本当に笑うをミロは目を細めて見つめていた。 吹っ切れたのか、は残り少なくなっていたお弁当をニコニコしながら食べ始めた。 (よく変わる表情だ。) ------今まで通りで良いと思う------ カミュの言葉を思い出す。 あの時は、にどんな言葉を掛ければ喜ぶか、どうすれば笑顔がみれるか、悩んだが。 を大事にしたいと思う気持ちで傍にいれば、自然と俺とは近づけると今なら分かる。 世の幾数多の恋人と呼ばれる男女も、こうして近づき合っているのかとふと思うと、今俺はなんて幸せ者なのだろうと思わずにはいられない。 そんな事を考えていたら、ごちそうさま。とが手を合わせている所だった。 あ、と思い出したようにがミロへ向きなおした。 「ねえ、沙織には私達のこともう少し内緒にしておいてね。」 やっぱり恥ずかしいじゃない? 「内緒・・・、らしい奥ゆかしい考えだが。しかしアテナはもう俺達のことはご存知だぞ。」 「・・・は?」 「だから内緒というのは無理だ。」 とを見れば、はミロを凝視していた。 「・・・?」 その凝視っぷりに首を傾げるミロであった。 「ど、どうして?知ってるってどうして!?」 「アテナに見られてしまったんだ。」 にはミロの言っている事が今一把握できない。沙織は何を見たというのだろう。 「聖域を発つ前の晩、みんなで飲んだだろう?」 うんうんと頷く。 「その時1人であの場から抜け出しただろう?」 ドキっときた。 忘れたくても忘れられない、あの夢が頭によぎる。 夢とはいえ、ミロとキスしたなんて。 恥ずかしくてすいっとミロから顔を逸らしてしまった。 「俺もあの場から抜けてを追いかけたんだ、実は。」 「え・・・。」 "を追いかけた" 聞き流せないミロの言葉だった。 「俺の目から見ても酔っていたのは分かったから気になってな。そしたら、君はテラスで眠っていた。」 ミロがあの場にいた それは、に静かに驚きを与える事実だった。 そしてその驚きは隣にいるミロに伝わった。 「、俺があの場にいたことがそんなに驚くことだったか?」 自分が驚いているのを察してくれて、は言葉を発する前にただ頷くことしか出来なかった。 ミロもが驚いている理由が自分が言った言葉にあると分かっても、何故かまでは分からない。 「どうしてあの場に俺がいた事がそれ程おどろく事なのか、俺には分からないんだが。」 またドキっときた。の顔がほんのり色付いてくる。 「えぇ〜と、それは・・。」 ミロが話してくれた事実で考えられるのは一つだけ。はっきり残っていた唇の感触は夢ではなく、現実かもしれないという事。 でも、とてもじゃないけどミロに確認を取るなんて出来るわけがない。 この話から逃れるため、は話題を変えた。 「それで、沙織は何を見たの?」 「あ、あぁ。」 話が逸れたことにホッとしたのもつかの間。今以上に動揺する事をミロは言い放った。 「俺が君にキスしているところを見られていたのだ。」 傍目にも分かるくらいにの動きが止まった。 「君の寝顔を見ていたら綺麗だと思って。の意志を無視した行いだとは思ったが決していい加減な気持ちで取った行動ではないと分かってくれ。」 はまだ固まっていた。 「聞いているか?。」 様子のおかしいに問うが、本人の耳には届いていないようだ。 や、やっぱりあれは夢じゃなかったんだ!本当だったんだ!それよりも沙織に見られてたって?! うっそ〜〜っ!!!。 一気にの顔が赤くなった。 自分の世界に入ってしまったらしいには俺の声は聞こえていないと、ミロは思い、今度は真っ赤になる様を黙ってミロは見つめていた。 「沙織が見たって本当・・・?」 独り言のような小さな小さな声。しかし、ミロにはしっかりと聞こえていた。 「本当だ。」 「!!・・・・・っ!」 何か言いたそうには口をパクパクさせている姿が妙に可愛い。 「し、信じられないっ!」 突然大きな声でミロに向かって怒鳴り出した。 「?」 さっきまで顔を赤くしてしおらしくしていた態度とは一変し、ミロは面食らった。顔は相変わらず赤いままであったが。 「沙織に見られてたってよく平気で言えるわね!」 あれを見て沙織はどう思っただろう。 あの晩から今日まで変わりなく沙織は接していたようだけど、その心の内は何を考えていたか思うと恥ずかしくて仕方がない。 「私、沙織の顔が見れそうもない。」 「今まで普通にしていたのだから、今まで通りでいいんじゃないか?」 ついこの間、俺も同じようなことを言われた。やはりこれが一番いいのだろう。 大袈裟だなっと、さして気にもしていないミロにとっては見られた事はそれほど大事ではないようだ。 自分はこんなに取り乱されているのに、その原因を口にしたミロの態度は相変わらず。 少しばかりミロを恨めしく思い、一言何か言ってやらなければ気が済まない。 「なんでそんなに冷静なのよ〜。私1人でバカみたいじゃない!」 「アテナに見られたのがそれほど嫌だったか。」 ふうっと、溜息をつくとニヤリと笑う。 「では、眠っていたにキスしたことは嫌ではないから許してもらえそうかな?」 「え?あーーー。」 沙織の事で動転してそっちの事はすっかり忘れていただった。 嫌なんて、そんなことあるはずがない。夢じゃなかったのがとても嬉しいよ。 俯いて黙ってしまうと、しばらく沈黙が続く。沈黙を先に破ったのはミロだった。 ゆっくりの両手をとる。どうしたの?とミロの行動を見ているとミロは顔を近づけてきた。 「もう一度、やり直そうか。」 「は?」 言われた言葉とそこに含まれる甘い雰囲気を感じ取り、問いかけるように呟いた。 「ミロ」と。 ゆっくり近づいてくるミロの視線に捕われ逸らせなくなってしまった。あまりの緊張に目をつぶる以外自分を保てそうもなくて、ぎゅっと瞼を閉じるしかなかった。 しかし、ミロにそれ以上動く気配はなかった。 そうっと目を開けると目の前でミロが笑っていた。それがとても優しく見えて。 さっきはミロを見れなくて自分から目を瞑ったのに。今は静かに自分の手を離すミロから目が離せなかった。 「面白いなは。」 笑いをこらえているのがありありなミロに「面白い」と言われ、はからかわれたのだと憮然とした表情になった。 「ミロがからかうからでしょ。」 「それは仕方がないな。好きな女の反応は些細な事でも嬉しい。反応が返ってくるってのは嬉しいものなのだぞ。」 不機嫌に眉が寄っていたのが途端に解かれていくのをは自覚した。 こそ大好きなミロにそのように言われて嬉しくない訳がない。 しかし、機嫌が元に戻ったことを素直に表に出すのは悔しいので。 「なんでそんな恥ずかしいセリフが言えるの!ミロってもっと冷静な人だと思ってたのにっ。」 なんて少し刺のある言い方をしてみた。 でも、ミロには全然通じてないみたいで。 「やはり可愛いぞ、は。」 今度は面白いではなくて、可愛い。何て返せばいいか分からず、ポカンとミロを見ていると。 「そろそろ戻るか。昼休みも残り少ないだろう。」 唐突に終わってしまった。 「う、うん。」 あういう言い合いは嫌いじゃない。逆に楽しい。 ミロと一緒の時間がもう終わってしまうかと思うと、片付ける動作も心なしかゆっくりになる。少しでもミロと一緒にいる時間を作るために。 屋上から屋内に入ると、ミロは沙織の護衛。は沙織の秘書。戻る場所は一緒なのだが、荷物を置きにロッカーに行くため、途中でミロと別れることになった。 別れる時、ミロが言った。 「続きは今度な。」 の反応は確認せず、すぐに背を向けて片手を挙げながら歩き出してしまった。 が今どのような状態かは、見なくても分かる。 きっと真っ赤になって困った顔をしているだろう。 実際、ミロが想像した状態でしばらくボ〜としてしまい、危うく午後の業務に遅刻しそうになった。 Next メニュー 一度消えてしまった話より若干エピソードが増え消える前の話より長くなりましたが、思ったより早めに書き上げられてホッとしてます(それでも半年かかりましたが;;) そして、確認のために数話さかのぼって読み返したんですが、もしかして、今回の話に入れなければならないんじゃないかコレって、ていうのを発見してしまった!そんな話を書いてたのか〜とすっかり忘れてました。(だって何年前だ) しかしそれを入れなくても別に問題ない気がするので、入れると余計長くなるしで次回に持ち越すことに決定。 |